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第49話

熱が下がり、すぐに出勤した俺に龍雅さんは眉を潜めた。 が、すぐにお見舞いだとビニール袋を手渡した。 中身は、スポーツドリンクにゼリー飲料水。 冷却シートも入っている。 誰かに聞いて買ってくれたのだろう。 あるいは誰かに、聞いたのかもしれない。 あのラーメンのことを思い出す。 あれは、効くと信じてくれてたんだと思う。 だけど今日は、俺の為に、俺の具合を思って選んでくれた。 それが、なんだか、嬉しい。 ちゃんと、嬉しい。 「元気になって良かったよ。 けど、無施錠はいただけないよ。 あの時は助かったけど」 「閉めたつもりだったんですけど…」 「男だから、とか通用しない世の中になってきてるんだから気を付けて。 田舎だって信頼出来る人ばかりじゃないんだよ。 俺とか」 また滲む暗闇色。 龍雅さんは時々、その色を見せる。 嘘を言ってるようには思えない。 だけど、それが本当のことでもないと思う瞬間がある。 上手く言葉に出来ないけど、線を引かれているみたいな。 そんな少し寂しい気持ちになる色だ。 その色の中に、1人で居てほしくない。 「でも、来てくれたのは龍雅さんでした」 腕に触れ、気持ちを伝える。 言葉からも、行動からも。 言葉からでも、触れた腕からでも、どちらでも良い。 この気持ちが伝われば、それで良い。 必ずしも、線を引いて区別する必要なんてない。 したくないなら、しなくて良い。 そんな悲しいことしないでほしい。 それごと受け取りたいから。 「そういう意味にとっちゃうよ」 「…そ、いう…意味です…」 図々しいと思われても、この手は離したくない。 両方の手でしっかりと握り締める。 嫌われても、軽蔑されても、1人にさせたくない。 「意味、分かってるの? キスしたいとか、セックスしたいとか、そういう意味も含まれるんだよ」 「俺も…、そう、いう、意味です…」 龍雅さんの腕が動いた。 安いソファが軋む。 抱き締められるような体制にかわり、さっきま で握っていた手が腰から臀部を撫でる。 大きな男の手だ。 触れられたことでそれがしっかりと伝わってくる。 「犯したいって言ってるんだよ。 こうやって触るんだよ。 想像して」 「そんなこと言っても…逃げません…」 試し行動くらいで怯んだりしない。 そんなことで、龍雅さんが楽になるならいくらだって試して良い。 だって、目が揺らいでいる。 「俺は、逃げませんよ」 「…っ、」

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