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第52話
「ん!美味いっ」
「お口に合って良かったです。
インスタントですけど、味噌汁も飲んでください」
沓摺に腰掛け、ベランダに脚を投げ出す。
気持ちの良い風を浴びながら、大きな口でおにぎりを頬張る横顔。
パクパクと腹の中に収められていくのが気持ちが良い。
隣で同じ物にかぶり付く。
なんだか、今日のご飯はいつもより美味しい。
魚はある程度ゴロッとしている方が食べ応えもあって、贅沢で好きだ。
たまごは甘め。
味を締める為に刻んだ青菜や、大葉を混ぜても美味しいが、生憎冷蔵庫の中にはなかった。
なのに、今日のおにぎりは1段と美味しい。
「こういうのって、みんなするの?」
「あー、みんなではないと思います。
むしろ少ない…かも。
けど、ベランダにガーデニングセットって言うんですか?
机と椅子を置いて、ご飯食べる人も稀にいますよ。
飲み物飲むだけとかなら、そこそこですかね…?」
「ふぅん?
今度自慢しようかなぁ」
ニッと笑う龍雅さんは、本当に嬉しそう。
自分が当たり前に過ごしてきた日々を龍雅さんは得られなかった。
それは、二度と取り返されることの出来ない日々だ。
だけど、だからこそ、その時に出来なかったことを今したって良いんだ。
どう満たすか、なんて自分が決めることなんだから。
そして、その隣に俺の席がある。
これ以上のことはない。
「自慢してくれるんですか?」
「うん。
こんな美味しいおにぎりははじめてだからね」
「また食べましょうね。
味噌汁も作って。
今度は材料揃えておきます」
「それは楽しみだ」
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