62 / 111
第56話
「龍雅さん、シャワー使ってください」
「お邪魔します。
帰ってきて早々シャワーって…」
「変な意味じゃないです…。
猫のかかっちゃったから…。
このスーツは洗えますか?
クリーニングします…」
「スーツは気にしなくて良いから。
というか、たまたまだから、コタくんのせいじゃないよ。
気にしなくて大丈夫。
けど、そうだね。
シャワー借りるね」
シャツだけ洗ってもらえるかな、と言われてしっかりと頷く。
予洗いをして、においをなんとかしなくては。
泥汚れ用に固形洗剤がある。
それで擦ればにおいはとれるだろうか。
龍雅さんがシャワーを浴びたら、ネットで検索だ。
「タオルとかは俺が用意しますから」
「ありがとう。
じゃあ、シャツだけお願いするね」
ワイシャツはともかく、ネクタイはクリーニングだ。
せめて手洗いしたいが、型崩れしてしまってはいけない。
こっそりとスーツもクリーニング店に持ち込みたいが、今出掛けてしまえばバレてしまう。
なにも知らない自分が見ても品の良いスーツ。
そういえば、と、昨晩のことを思い出した。
「すみません、龍雅さ…」
「コタくん、ボディ…どうしたの?」
脱衣所の扉を開けたところで、浴室から裸の龍雅さんが顔を出した。
お互い言い終えることなく言葉は止まる。
しっかりとした胸鎖乳突筋。
骨張った鎖骨。
そこから続く胸、腹、は筋肉質で、自分のものとは全く違う。
そして、その下も。
シャワーを浴びている途中だったのか、濡れた身体が艶かしい。
「…っ!!
すみませんっ」
「別に裸くらい…。
それより、ごめんね。
ボディソープが空で…予備とかあるかな」
「ありますっ。
洗面台の下、俺がっ取りますから」
視線をそちらにやらないように予備のボディソープを手渡す。
「ありがとう。
入れておくね」
「…あ、いえ…、俺の方こそ、ありがとうございます…」
同じ男の身体なのに、なんでこんなに意識してしまうのだろうか。
ともだちにシェアしよう!

