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第58話

皿洗いをしてくれてる龍雅の隣で梨の皮を剥く。 なんとく言葉を選び過ぎてしまって、会話が続かない。 それでも、隣にいてくれることに甘えてしまう。 「終わったよ。 今日も美味しいご飯を作ってくれて、ありがとう」 「俺こそ、洗い物ありがとうございます。 もうすぐ梨剥けるので座って待っていてください」 「うん。 でも、見てたい」 言葉数は少ないが、龍雅さんの言葉はいつも真っ直ぐに届いてくる。 龍雅さんは飾ったり、媚びたり、そういうことはしない。 いつもストレートに手元へと届けてくれる。 そういうところも好きなんだ。 言葉が途切れ、シャリシャリと皮を剥く音だけが聞こえる。 それを破ったのは俺。 「…あの、さっきはすみませんでした」 「いや、俺もごめんね」 「そんな、俺がいけなくて…」 俺が変に意識をしたから。 裸を見て、勝手に性的なことを結び付けてしまったから。 はしたなくて恥ずかしい。 口から出るのは、自分を下げる言葉。 こんな風に言ったらいけないと分かっているのに、癖のように口から出てしまう。 「…そうだ。 やっぱり仲直りの為にはケジメが必要だよね。 小指、サクッといこうか」 「だっ、駄目ですっ。 なに言ってるんですかっ」 「ケジメって言ったら、指先詰めでしょ。 間接外さなければ、一息でいけるって」 「洒落にならない…。 しなくて良いですからっ」 「なら、仲直りしてくれる?」 「しますっ、しますから…」 何度も頷くと、龍雅さんは漸く安心したような顔を見せた。 多分、龍雅さんなりのジョークだったのだろう。 ブラック過ぎて笑えなかったけど…。 けど、それはきっと俺が卑下する言葉を吐いたから。 やめさせる為に、和ませる為に言ってくれんだと思う。 悲しいほど人の傷に気づくのが早過ぎる。 「じゃあ、あーん」 「え…、あ、」 剥いたばかりの梨を口元へと差し出しながら、口を開けるように促す。 多分、わざと恥ずかしいことをして俺の落ち込みを追い出そうとしてくれたんだ。 龍雅さんは、そういう不器用な優しさで人を救いあげてくれる人だから。

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