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第76話
「コーラください」
「はい。
150円です」
「俺も、お茶くーださい」
「はい、120円…」
農協揃いの紺色のポロシャツに身を包んだ幼馴染みは、こちらを見上げるとパッと嬉しそうな顔を見せてくれた。
沢山の人に紛れようが、分かってくれたらしい。
「遠山さん」
「手伝いますよ」
「東雲さんの営業部リーダーさんが良いんですか。
お高そうですけど」
「えぇ、お任せください。
勿論、友達価格にしますよ。
今は、一応勤務時間外ですから」
悪戯っぽく笑えば、なら甘えようとばかりの顔が返ってくる。
いつもの琥太郎だ。
いや、いつもを“装う”琥太郎、か。
「値段、覚えられる?
お茶が120円、ジュースが150円、ラムネは100円」
「余裕だわ」
「冷やしトマトは?」
「ないです」
「正解」
タオルを1枚渡され、氷水の中から取り出した飲み物を拭くように指示を仰ぐ。
臨機応変に飲み口を開けるのも忘れない。
今日、来客している方の中には高齢の方や小さな子供もいる。
誰もが楽しみやすいように工夫するのも仕事の内だ。
「ラムネちょうだいっ」
「はい、100円です。
開けられる?」
「うんっ」
「開けられなかったら、開けるから持って来てね。
気を付けて」
琥太郎とこうして並んでいると学生時代に戻ったみたいだ。
文化祭や学祭で、こうして並んで作業をしていた。
楽しかった。
当たり前に隣にいて、笑って、明日も隣にいられると考えることすらしなかった日々。
振り返ってみれば沢山のキラキラで溢れている。
だからこそ、大人達は学生時代を大切にしろと言うんだ。
お節介だとしても、そのキラキラは振り返ってみた方がうんと美しいから。
当時の同級生の中には、さっきの子くらいの子供がいる人もいる。
学生でなくなれば、本当に人生に大きな差が出るんだから面白い。
そして、その中でまた琥太郎の隣にいられることがなによりも嬉しい。
隣を見ると、ん?と首を傾げたが、こんな幸運はそうないだろう。
だからどうか、琥太郎にも手渡したいんだ。
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