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第77話
「あ!
こたろーっ!
たかやっ!」
「碧!」
「おっす」
元気な声に顔を上げれば、キャップを被った碧が手を振りながらやって来る。
もう反対の手では、母親の手をしっかりと握り引っ張っているが、その瑠璃子さんは急ぐ気配は全くない。
瑠璃子さんは今日も瑠璃子さんのままだ。
まぁ、人が多いので走らないでくれるならそれに越したことはない。
琥太郎と共に手を振り返すと、にっこにこの笑顔が返ってくる。
「きたよっ」
「琥太郎、飲み物の係なんだ。
鷹矢くんも?」
「手伝ってくれてるんだよ」
「おれ、ラムネのみたい」
「100円です。
開けれる?」
「わかんない!」
「ははっ、分かんないか。
なら、一緒に開けるか」
しゃがみ込む小さな身体を後ろから包み込む。
これまた小さな手を玉押しの上にのせ、自分のものを重ねる。
小さなちいさな手だ。
自分の手にすっぽりと隠れてしまう。
そのままグッと押し込むのだが、どうも碧の手のやわらかにビビって押しきれない。
骨折させてしまいそうだ。
「俺の手、押せるか?」
「こう?」
小さな手がグッと手を押した。
それに合わせて玉押しを押し込むと、シュワ…ッと爽やかな音がした。
途端に広がる甘いラムネのにおい。
ペットボトルの瓶ではなければ、ビー玉がガラスに当たる涼やかな音もしたのだが、最近はペットボトルタイプが多くて久しくその音は聞いていない。
中のビー玉が欲しくて琥太郎と割ろうとしたけど割れなくて苦戦したのは、今となれば楽しい思い出だ。
「あいた!」
「開いたなぁ!
はい、どうぞ」
「たかや、ありがと!」
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