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第78話
琥太郎と飲み物を売りながら、直接農家さんとも話をして様々な角度からの意見をもらう。
やっぱり琥太郎が間にいてくれると、農家さんも腹の中を話しやすいのか色々と質問してくれるので有難い。
やっぱり琥太郎の積み重ねてきたものは、とても大きな財産だ。
去っていく農家さんに頭を下げて見送っていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あ、先輩っ。
おはようございます」
「おはようございます。
休日なのに、ありがとうございます」
「いえっ。
こちらこそ、よろしくお願いします」
深々と頭を下げる吉野くんは、琥太郎へと向き合う。
キリッとした顔付きに、隣も背筋を伸ばした。
真面目同士の挨拶を端から見ると面白いなと思っった。
「久世さん、おはようございます」
「吉野さん、おはようございます。
本日は休日なのに来ていただいてありがとうございます」
「とんでもないです…っ。
お祭りも楽しんで良いって言われてるので、楽しみにしてきました」
入社し半年。
自己紹介や話し方も慣れてきたようだ。
大きな成長に喜びを感じる。
だけど同時に、吉野くん達が1人前になる頃にはこの土地からいなくなっているんだと思い知らさせる。
今でも気にかけて連絡をくれる部長は、戻ってくるのを楽しみにしていると有難いことを言ってくれるが、自分の本心は分からない。
帰りたいのか、残りたいのか。
その理由も…。
「そうなの?
なんか、手伝ってもらってるの悪いな」
「おん?
会社からもここでの飲食は売り上げへの貢献も意味があることだからって許可もらってる。
けど、手伝うのは俺の意思だよ。
気にすんな」
自分も手伝った方が良いのかと、吉野くんの視線が動く。
だけど、これはあくまでも友達の手伝いをしているだけだ。
緩く頭を振って意を示す。
ただ、親友の……琥太郎の隣にいたいだけだ。
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