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第79話

「久世さん、休憩してください。 かわります。 遠山さんもありがとうございます」 「ありがとうございます。 では、お先に休憩いただきます」 「では、お願いいたします」 交代の職員の方がやって来て、時刻が昼時なことに気が付いた。 無償の仕事でも琥太郎としているとあっという間に時間が過ぎていく。 伸びの1つでもしたいところだが、生憎社名と共に訪れているのでそれだけは我慢だ。 どんなに丁寧に築き上げた信頼だって、崩れる時は一瞬なんてこともある。 だからこそ、裏切らないように行動をすることが大切になってくる。 大人っていうのはめんどくさい。 だけど、生きていく上でとても大切なことだ。 人を信じることは、信じてもらうことだから。 人波に混ざりながらあちこちから香るにおいを嗅ぎ分ける。 香ばしいソースのにおいも、香ばしければ焼きそば、そのままならたこ焼き、と分けられる。 それから擦れ違う人の手に持つ物をチラ見して考える。 「鷹矢、焼きそば食う?」 「んじゃ、もらおうかな。 コタもフランクフルト食う?」 「うん」 各々が別の列に並び一気に昼飯を用意する作戦は 、学生の頃からよくしていた。 文化祭や、フードコート。 そういうところでは、このやり方が1番効率が良いと思う。 割り勘は後からすれば良い。 琥太郎との関係性だから出来ることだ。 じゃ、と一旦分かれて昼飯を見繕う。 ソースの焼ける香ばしいにおいがたまらない。 やっぱり祭りは粉ものとソースの鉄板だ。 楽しみにしつつフランクフルト列に並ぶ。 そして、軽く今日の流れをスマホで再確認。 デジタル媒体は目が滑るので、しっかりとだ。 それから、農家さんから聞いた意見等を纏めていく。 こんな隙間時間でも使えば後から大きなゆとりが出来る。 都会ではそういう生き方だった。 だけど、この土地にいるとその瞬間しゅんかんを見ていたいと思えるから不思議だ。 同じ時間のはずなのに。 なぜか見ていたいんだ。 沢山の人達に、沢山の笑顔。 手に持つ野菜は取れ立ての直産物。 新鮮で美味しい作物がこんなに近くにある。 それは一種の豊かさだ。 物が溢れていることが豊かではない。 この町は確かに小さくて狭いが、 外から見た時に誇れるものが沢山ある。 こういう雰囲気の中で家族や友人と食べるから美味しい。 食事というのは本来的そういうものだ。 そういうものを再確認することも出来る小さな祭りは、大切に守られている。

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