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第93話

顔をぐしゃっと擦って、無理やり整える。 そんな気持ちを顔に出さないようにしながら、訪れたのは琥太郎の実家だ。 琥太郎が行きそうなところ。 それが8年前で止まっていることに気が付いた。 今の琥太郎が行きそうな所が分からない。 親友、なんて体の良い言葉で安心して胡座をかいてしまっていた。 目を逸らしていたツケがこんなかたちで表れるなんて思いもしなかった。 どんな言葉も言い訳だ。 これが…、目の前が現実なんだから。 チャイムを押すとおばさんが出た。 顔に気持ちが出ないように、営業用の笑顔を貼り付けた。 「あら、鷹矢くん。 こんにちは」 「たかや?」 奥からヒョコっと顔を出すのは碧。 目が合うと、パァッと目を輝かせた。 「たかやだ! あそぼ!」 「鷹矢くんは、ご用事があるの。 寒いでしょ。 どうぞ、上がって」 おばさんにすぐに帰ることを伝えるも、嬉々としながら用意するから上がっていってと言う。 でも、本当に今はそんな余裕はない。 玄関に琥太郎の靴はない。 違ったか。 「碧、琥太郎いる?」 「こたろー? おでかけしたよ」 「お出かけ?」 もしかして… 『海……』 『コタ…?』 「碧、ママに、琥太郎が帰ってきたら俺が探してるから連絡してって伝えてくれる? 出来る?」 「うんっ。 できるっ」 「頼んだ」 琥太郎にそっくりな顔で頷いた小さな頭を、グリグリと撫でた。 碧にとっても大切な家族だ。 俺にとっても、とても大切な。 諦めたくない。 琥太郎を、諦めたくない。 グッと足を踏み締め、今潜ったばかりの玄関を抜けた。

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