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第94話

っても、海ってどこだ 近くの海岸から、しらみ潰しに行くしかねぇのかよ すぐに車に乗り込んだものの、“どこ”に向かうんだ。 琥太郎が行きそうな場所。 琥太郎が向かった海。 幼い頃によく行った海辺、ここから1番を近い海岸。 いや、そもそも、海辺にいるのか、海岸にいるのかすら分からない。 海なのはほぼ確定だ。 根拠はない。 ないが、親友の勘だ。 人間を見付けるより車を見付ける方が見付けやすいが、海辺の駐車場だって数はある。 人の多い所は避けそうだとしても、道なりを脇見しながらの運転は危険だ。 事故れば時間が失われる。 電話にも出やしないし、手掛かりはない。 あの人なら分かるのかよ… 顔も知らない琥太郎の“大切な人”。 あの腕時計の似合う人だったんだろうな。 大人で、格好良くて…、きっと琥太郎を大切にしていた。 比べたって琥太郎は見付からない。 それなら、今はそんなことで悩んでいる暇はない。 細く息を吐き出す。 もう一度空気を吸って、また吐く。 こういう時は息を吐くことだけ意識したら良い。 吐けば勝手に空気を吸い込むから。 何度か息をゆっくり吐くと営業用の仮面を捨てる。 琥太郎には、素顔でいたい。 頼むから、引き留めててくれよ 神でもない“誰か”に祈りながら、アクセルを踏み込んだ。

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