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第8話 追われる旅が始まった

お父上はシャルル様のために頑張られました。  アナマリーが言った。アナマリーの小鳥が王の寝室の空いている小窓から僕たちの様子を伝えていた。アナマリーのつかう小鳥は基本特定の鳥ではない。長距離が飛べる渡り鳥のような鳥は指示を忘れてしまうので、短距離の留鳥をつかう。その鳥達が、ある程度は伝言ゲームのように鳥から鳥へメッセージを伝えてくれる。ただ、せいぜい馬車で三日くらいの距離しか伝えられない。  三日目の朝、ゾルタン国王が亡くなったそうだ。僕たちがお別れに行ってすぐ、正妃と兄達は父王の部屋へ。今にも亡くなりそうな王を看取るためだ。何度も危篤になり、何度も持ち直した王に付ききりとなった。僕たちの不在は知られぬまま。僕たちの様子を知らせに小鳥が部屋に入ってピイと鳴く。鳥が王をお慰めしている、と言われていた。もうこれ以上、アナマリーの小鳥も届かなくなる最後の伝言を聞いたところで、王は身罷った。  その頃には、王宮から随分離れることが出来ていた。アナマリーには王から資金も渡されていたので、すぐには困ることもなかった。ただ、ここからはあまり大きな街道を通れないので、野宿もする事になるかもしれない。昼は昼の鳥達が、近隣の街までの様子を教えてくれる。夜はフクロウやヨタカなのであまり公範囲を警戒できないけど、寝る分には大丈夫らしい。  僕たちは、カリエ王国を目指していた。  カリエ王国からの迎えは僕たちが出奔して数日でゾルタン王宮に来た。ただ、ちょうど国王の死去と重なってしまい、混乱の中、月の宮の様子も分からないまま待機となった。そして、とうとうアンリと僕の行方不明は知られる所となった。迎えの馬車は空のまま帰ることとなったが、速馬が仕立てられ、またその数日後にカリエ王国の摂政叔父に伝えられた。  アナマリーはこの五年のカリエ王国の様子がはっきりしないと言った。今までアンリには、王や王妃、妹達からの簡単な手紙は届いていた。だが、政治的な話はなく、今、摂政を務めている父王の弟の話は聞いたことがない。ソルヴェノナ北帝国との紛争の様子も知らされていなかった。そのため、知られずに入国して、様子を探るのだそうだ。  ◆◇ ◆◇ ◆◇  僕もアンリもずっと外に出ていなかったので、世間というものを知らなかった。お金を使った事もなく、交渉とか、人付き合いとか、全てが初めてだった。もちろん、アナマリーが手配してくれるんだけど、目の前のそのやり取りが僕もアンリも面白くて仕方ない。  僕たちは大きな商家の兄弟で、アナマリーは召使い。親の指示で初めての商売の体験に取引先に出向く所という設定だ。どの町でも、次の街に迎えが来ている、待ち合わせに少し遅れてしまったと言って、従者がいない言い訳をしていた。  アンリは人前では僕を兄さんと呼んだ。僕たち、全然似てないけど。僕は母似でアンリは父似ってことで。仲のいい兄弟なのは本当。いや兄弟ではないんだけど。アンリが兄さんと言う度にくすぐったい感じがする。  大きな街道を外れて、旧道を歩く。途中の街で防寒具や野営の道具等を揃えた。そこそこの荷物になった為、僕たちはロバを買った。バアルと名付けた。可愛い。あったかい。力持ち。旧道こと昔の巡礼道は、カリエ王国からゾルタン王国の古い宗教の聖地に続く。その道を逆にカリエ王国に向かう。太古の宗教が起こったのは数千年前のことなので、今ではそこから複数の新しい宗教が派生しているけど、聖地は今も大事に保存されている。巡礼者は今では大きな整備された街道を使うので、旧道は途切れ途切れ。アナマリーには鳥達が高みから見つけた道の続きを教えてくれていた。このまま、ゾルタン王国とカリエ王国の間の山脈を抜ける。 「覚悟して。険しいから」  ただ、もう春になるので真冬よりはマシらしい。山脈地帯に向かって、今度の宿が最後かも知れない。後は野宿だ。  僕の追っ手はまだ来ていない。来ていれば、鳥達が知らせてくれるはず。そんな中、僕が風邪をひいた。高熱が出て、寝込んでしまった。三日目に熱は下がったけど、声が全く出なくなった。この三日がもったいなかった。動くには動けるようになったので、出発することにした。朝、中庭の井戸で顔を洗って身支度をしていたら、誰かに腕を背中に捻って締め上げられた。 「シャルル王子ですかい? 」    

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