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第10話 お祭りと巫女舞
僕たちの祭りにようこそ。
「僕は当代の村長なんだ。まだ、若造なんだけど」
アナマリーは丁寧なお辞儀をした。
「あぁ、いいよ。別に僕、偉いわけではないからさ」
お面の青年は僕たちに優しい笑顔で言った。
「この人と話がしたいんだ。君たちはお祭りを楽しみながら待っててくれるかい?」
アナマリーを見ると、僕たちに頷いていた。
「お祭りの時期は村を離れた人たちも沢山帰ってきてるから、賑やかなんだ。誰か、この子達を案内してやって」
バアルの近くにいた中の、僕たちと同じくらいの歳の子達が
「いいよ。一緒に見て回ろう」
と言ってくれた。見ると、バアルは花冠まで乗せられていた。上機嫌だ。
「祭りの屋台はなんでも無料。楽しんでくれ」
「一刻ほどで戻る」
「今晩はウチで泊まってもらうから、途中で疲れたら誰かウチに送ってくれ」
周りにそう声をかけて、アナマリーと青年はアーチをくぐって教会の方へ。
屋台の食べ物は見たことのない物ばっかりで、全部美味しかった。朝から、ほとんど何も食べていなかったのもあるけど。皿に載っていない食べ物なんて初めてだった。みんな手に取って食べやすいように工夫されていた。
黒くてへにゃりとした甘い匂いのホウホウ焼き。丸い黄色いピヨピヨ焼きは甘いのとしょっぱい具の入ったのと二種類ある。灰の中で焼かれたカッコウ焼きの具も色んな野菜と甘いナッツとがある。棒に付いたスズメ巻きもマヨネーズとソースがかかって具の種類はひとつひとつ違うんだけど、全部美味しそう。食べ切れないから、毎回アンリと半分こしてたんだけど、もう無理。
噴水の周りに腰掛けて、さっぱりする透明な緑のお茶を飲んでいたら、花火が上がった。それを合図にステージで音楽と踊りも始まった。踊りは大人も子供も誰でも参加できるようだった。
しばらく見ていたんだけど、案内してくれた子達がうずうずし出したので、僕たちも一緒にステージに上がった。振り付けはそんなに難しくない。広いステージが何重にもなった人たちでぎゅうぎゅう。間違えたってなんだっていい。何これ楽しいな。
バアルはステージの脇でぴょんぴょん跳ねていた。
◇◆◇◆◇◆
ひとしきり踊って、しばらくすると、音楽が変わった。ステージの上からみんな降りて、周りを囲んでいる。楽器もまた、違うものが加わった。大きな綺麗な太鼓、横笛を吹いていた人は縦笛になり、響きの違う笛も増えた。そして、顔の前で両手で囲むように吹く楽器は、村の子達が憧れの鳳凰という鳥を模しているそうだ。
それぞれの楽器が最初バラバラに鳴らされていたんだけど、飾りの付いた大きな太鼓がドーン……と鳴らされると、不思議な曲が奏でられ始めた。
すると教会……村の子達によると、神社というらしい。神社から、鈴の音が聞こえて来て、アーチ……鳥居というらしい。神社から手に鈴を持った巫女が鳥居を通って、広場のステージに降りてきた。ステージの上の演奏者の前に出ると、一礼して鈴を振ってくるくる回り出す。
「巫女舞っていうんだよ。今年、巫女さんがいないって言ってたんだけど、よかった。さっきのお姉さんが舞ってくれるんだね」
「巫女さんが踊ってくれないと、一年、悪いことが起きるかもしれないからね」
朱と白の衣装で黒髪に飾りをつけたアナマリーが、銀色の鈴が沢山ついた棒を右手に、その棒に付いてる五色の比礼を左手に持って踊っている。
目を閉じたままで。
アナマリー……なんだか違う人みたい。アンリが不安そうに言った。
巫女舞が終わると、アナマリーは神社に行ってしまった。
僕たちは村長の屋敷にお邪魔することになった。村の子達が連れてきてくれた。
屋敷に行くと、バアルは馬小屋へ。荷物と僕たちは部屋へ通された。お風呂に入って、寝ることになった。アナマリーは明日の朝に戻るそうだ。
アナマリーがいないのは不安だけど、なんとなく、この村は安心できる気がする。
僕たちは布団に入って、あっという間に寝ついてしまった。
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