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第11話 僕たちに残された物

 翌朝、やって来たアナマリーは 「お祭り、楽しかった? 」  と聞いた。 「たのしかった。面白かった。けど、アナマリー、大丈夫? 」  そこからアナマリーはこの村の話をしてくれた。  ここはアナマリー達、東方流民朱雀派の隠れ里。アナマリーも噂で聞いたことがあったけど、どこにあるかは知らなかった。この里には東方流民の所縁の者しか入れない。僕たちはアナマリーと一緒だったから入れたけど。守りの力が効いていて、村にいれば外部の者に捕まることはない。  アナマリーは、この村という安全な場所にたどり着いたのに、ここから出るのが僕たちの為になるのか不安になったこと。どうしてもアンリはカリエ王国に送っていかなくちゃならない(要確認、危険なら行かない)、そして僕をゾルタン王国に置いていく訳にはいかない。僕もアンリと一緒に、カリエ王国にまで連れて行くつもりだった。でもカリエ王宮に行っても僕の処遇は保証できない。摂政である前王弟の心づもり次第では、僕もアンリもどうなるかわからない。このまま隠れ里に居れば命の危険はないなら、僕だけでもここにいたらいいんじゃないかとか。 「でも、あなた達は一緒にいたいんでしょ」  って力なく笑った。 「巫女は巫女舞の時に神を近くに感じられるから、巫女舞を志願したの。舞っている間にいくつもの道が見えたわ」  あんまり良さそうな道は見当たらなかったんだけどね。とは、聞こえないくらいの小さな声で言った。  一番いいのは山を超えて、カリエ王宮の様子を探って、摂政がアンリを王として受け入れてくれそうなら連れて行く。僕のことも保護してくれる。ソルヴェノナ北帝国の呪いもカリエ王宮の術者も落ち着いていて、平和に暮らしていけること。でも、王宮の様子によっては、力のある誰かを探すとか、仲間に引き入れて、更に味方も増やすとか。ゴールが遠くて、考えただけで嫌になる。  それもうまく行かなそうなら、ここに戻る。僕もアンリも、ゆっくり力を付けてから根回しして動いてもいいし、ここで幸せに暮らすのでもいい。 「シャルル様もアンリ様も特に果たしたい思いとかなければですが」  アナマリーはそう聞いたけど、お互いとっくに家族は遠いものだから、今この三人だけが大事だった。 「望みも恨みもない。自分たちで出来ることがないなら、『今』を手放したくないだけ」  普通なら恵まれている王子という立場なのに、僕たちが持ってるものは普通より少ないんだな。なら、これを失いたくない。   ◆◇ ◆◇ ◆◇ この祭りは祈年祭(きねんさい)という、豊年を祈って春の初めに行われる物だった。昨夜が宵祭り。今日が本祭。  お祭りが終わってから、明日の朝、三人で神社にお参りして出発することになった。今日はゾエは山越えの荷物の最終調整。僕たちは安心な隠れ里で初めてのお祭りを満喫していた。食べ物以外も遊べるお店も沢山あった。  途中バアルの様子を見に行くと、馬小屋の馬と同じひと部屋をもらって、世話をして貰っていた。なんか一番偉そうに見える。バアルに明日朝出発だよって伝えて、山登り大変だろうけど今日一日休んで明日からまた頑張ってって言ったら、 「あ゙ぁ゙! 」  バアルの声大きいから、馬小屋中の馬がビックリしてた。  村の子と村に来ている縁者の子達と好きなものを食べて、色んなところに行った。ゲイジュツの奉納とかで、ステージで歌や楽器の演奏や踊りもあった。僕たちも二人で、ゾルタン王国とカリエ王国の歌を披露した。アナマリーが見てくれてたらよかったのに。お祭りは夜まで続いた。一緒に過ごしたみんなと、またいつか会おうねって言って別れた。  出発の朝、アナマリーが迎えに来て、支度をして、神社にお参りに行った。  広場は昨日までのお祭りの跡がまだそのままで、人気がなくてとても寂しい感じだった。今日の午前中に後片付けされるらしい。  鳥居をくぐって、初めて神社へ行く。アナマリーの後に付いて二人。 「やあ、おはよう」  村長(むらおさ)の青年がいた。 「昨日、二人で歌を奉納してくれたんだって?ありがとうね。では、ここへ来て」  祭壇の前に、アナマリーと僕とアンリが並んだ。床に座って、お祈りをした。 『神籬(ひもろぎ)紙垂(しで)ゆらし 誓ひ宣る(ちかいのる)(たま)の限りに』 「君たちの旅の成功を祈念するからね。それぞれ、絶対譲れない願いを思い浮かべて」  そして、全員の顔を見てから、視線はアナマリーで止まった気がする。 「短い言葉で、強く心の中で唱えて」  そう言うと祭壇に向き直って、さっきの言葉を一言ずつ区切って言った。僕たちも続けて唱えてから、心で誓った。  僕とアンリは多分同じ事を。アナマリーはなんて思ったんだろう。        

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