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第24話 思い出の白い花畑で
食事が終わり、歓談の時間になるとルネは席を外した。
シモン・ドラクールと一緒に周りの人々に挨拶をしていたマリローズが、アルノーの所へ来て言った。
「お兄様、ルネを探して」
ルネの気持ちを知っていたのか、マリローズ。可愛い、酷い、マリローズ……。
「ルネの手を取って、慰めて。それで魔法が解けるから」
「魔法?」
「良い?必ず、ルネの手を握って」
マリローズに背中を押され、会場の外へ。どこだろう?あぁ、なんとなくこっちだと思う。
中庭を通って、沢山の建物を回り込んで皇宮の一番奥、隠れる様に作られた庭と建物がある。そこは、アルノーの為の庭と小屋だった。
まるで最初から分かっていたかの様に、駆け足でたどり着いたアルノーは小屋の前の、庭に向けて置かれたベンチにルネを見つけた。
小屋は前世のアナマリーの家に似せて建てられていた。そして庭にはあの白い花が咲き乱れていた。
満月の夜で、影が出来るほど明るい月が照らしていた。
アルノーが息を整えてから近づくと、ベンチに座って俯いていたルネが顔を上げた。
「ここは入ってはいけない場所でしたか?」
「この城に君が入ってはいけない場所なんてないよ」
アルノーはそっと隣に腰を下ろした。
「ここにあの白い花がこんなに咲いているなんて。探すのにとても苦労したのに。全く、俺は何も知らないんだから」
「元々、もっと寒い地方の花なんだが、ここで咲く様に品種改良したんだ。どこにも出していないから、誰も知らないんだよ」
「いや、ははは。花の事もですが、マリローズ様の婚約も」
ルネが顔を向けた。こんな時でも、君の瞳が見られて嬉しい。
「俺はこんなにガサツで、気が効かなくて……なんかとんでもない思いを……」
あぁ、ルネ。可哀想に。そんなに気落ちしないで。
アルノーは大きく息を吸ってから、色白の長い指を日に焼けた節くれたルネの手に重ねた。
◆◇ ◆◇ ◆◇
アルノーが手を握ると、ルネは黙りこくった。その目は閉じられて、閉じた瞼の内側で眼球が動いているのがわかった。
「う……」
しばらくするとルネは目を開けた。アルノーは見つめ返してくる視線に息を呑んだ。
「シャルル?」
応えられない。魂が喜んでいる。この時をずっと待っていた。やっとだ。やっと、待ちに待ったアンリに会えた。アンリ、アンリ……。
「……ア……ンリ」
待ってたんだよ。待たせてごめんね。ずっと探してたんだ。シャルルの事を考えない様にされてたんだ。どうしよう、嬉しい。嬉しい。嬉しい。
全然言葉にしなかったのに、お互いの気持ちが響いてくる。
やっと逢えた!
ひとしきり見つめ合ったまま、アルノーの右手と、隣に座ったルネの左手を重ねたまま、時が止まった様に動きを止めた二人。
初夏の風が、花畑をまるで誰かが歩いているかのように掻き分けて二人に近づいてきた。サラサラと揺れる白い花。それがきっかけの様にアルノーはルネに抱きついて号泣した。子供みたいに。
ルネは厚い胸で広い肩で太い腕で、アルノーを抱き込んでいた。嵐の様なアルノーの想いに当てられてつられて泣いた。それでも泣き止まないアルノーの背中をしばらくトントンしていたが、とうとう、アルノーの両肩を掴んで自分の胸から引き剥がすと驚いた顔をしたアルノーに口付けた。頬に、額に、瞼に……唇に。
「え?」
「え?」
「えぇ?」
驚いたアルノー、アルノーが驚いたことに驚いたルネ。お互いに状況を理解して驚く二人。
「俺の『好き』はこういう好きだし、もっと一つになりたいと思ってるよ」
「ずっと逢いたかった。逢ってどうするかは考えてなかった。ただ、共にありたいだけだった」
アルノーはただ逢いたすぎて、逢うことしか考えていなかった。逢えたら、どうしたらいいんだ?
「ではどうしますか?俺に好きな人が出来て結婚しても構わないですか?」
「いや、困るな。一番は私でなければ」
ルネは泣きすぎて力の入らないアルノーを支えて、小屋の扉を開いた。
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