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第26話 そうしてふたり2 ※

 一瞬でルネに背中を向けたアルノーはルネに肩を支えられたまま、そっとシーツに向かって倒れた。少し浮いた腰。ルネは月明かりに浮かぶアルノーの細い腰と小振りな白い尻をふわりと撫ぜた。ルネはアルノーの長い髪を片側に寄せてから白い頸に顔を寄せた。そういえばアルノーの髪からしっとりした花の匂いがしてる。香水より少し重めの香り。あぁ、ひょっとしたら……。  ルネは言葉にせずにアルノーの髪を1束手に持って、スンスン嗅ぐ仕草をした。アルノーはサイドテーブルから小さな口の広い瓶を出して手渡すと、少し考えて、瓶を取りに動く前の位置とポーズに戻った。kawaiiが過ぎるでしょ……ルネは大きく息を吐いて、笑うのを耐えた。俺の雪兎、耳の先だけ黒い、真っ白な雪兎……頭の中で雪兎が3回通り過ぎるのを待って耐えた。  ルネは、とりあえず手の中の煉香油でなんとかなるだろう、と安堵した。アルノーは髪に付けているようだけど、全身に使えるはずだから。無ければないでなんとかするけど、あるに越したことはないからなぁ。  煉香油はアルノーの侍女が用意したものだった。たまに小屋に泊まるアルノーは侍女を使わないので、お風呂上がりのアルノーの髪に香油を塗り込む事ができない。庭いじりや皿洗いの後もそのままでは手が荒れてしまうので、瓶を何個か渡されて、お風呂場、台所、寝室に置いて事あるごとに塗るように言われていた。侍女に。オデリーと言う侍女。怖い侍女。手荒れしては怒られ、髪がパサついては怒られるので、煉香油を塗るのに慣れてしまった。 「いいですか?もしも誰かと一緒にベットにはいることになったら、必ず渡してくださいよ。その人に」  すっかり忘れていたけど、ルネが言ってくれて良かった。言葉にはしてないけど。またオデリーに怒られるところだった。ルネに髪や手に塗って貰えばいいんだろうか?  ルネはアルノーと並んで横たわった。アルノーは仰向けのルネの胸が顔の横に来たので、胸の上に耳を当てた。生きている、ルネの心臓の音が聞こえる。二十三年求め続けたものがここにあるんだ。もうずっと一緒だ。ルネはアルノーの両肩を掴んで、上半身を自分の上に引っ張り上げた。左手でアルノーの頭を押さえて、口付けなから、右手の煉香油を指に付けた。アルノーは目を閉じてルネの舌を感じていた。ふと、花の香りがすると思ったら、ルネがアルノーの後ろに煉香油を塗りこんでいた。丁寧に。襞と襞の間も全部。 「う……」  アルノーは落ち着かない感触に声を漏らしたが、ルネはアルノーの唇を離さなかった。角度を変えてから、舌で唇の内側を一周し、また中でアルノーの舌を捉えた。その間に指は、アルノーの内側を押し開きながら奥まで煉香油を届けた。一度指を抜いて、熱で溶けて手のひら側に垂れた煉香油を二人の中心に塗りつけた。そのまま少し横向きになって、腰を寄せて、大きな右手で二人を合わせて慰めた。  アルノーは中心に齎される快感よりも、呼吸が出来なくて困っていた。意識が呼吸に行ってしまうので快感を拾うのが疎かになってしまう。唇を離すルネに合わせて息を吸うのに、ルネほど空気を取り込めなかった。ルネはというと、少し体温が低いアルノーの肌がどこもかしこもしっとり吸い付くようで、思った数倍襲ってくる快感のせいで、アルノーより先に逹した。ギリギリ最後の時の大きな呼吸の為にアルノーの唇を離したので、アルノーも呼吸の心配が無くなり、一瞬で襲われる快感にルネを追いかけて達する事となった。  夏の夜に鳴く虫が窓の外でリリリリリ……と鳴いていた。少し開けた窓から入る風が部屋の中に煉香油の花の香りを広げていた。二人はまたじっくりと見つめ合って、軽く口付けた。  息を整えたルネがもう一度煉香油を指に付けて、容器をアルノーの向こう側のベッドサイドに置いた。ルネの体がアルノーの上に被さる形となった。アルノーは目の前を通り過ぎるルネの肩や胸をそっと撫ぜた。それから、ルネはアルノーの胸や腹に飛んだ二人分の白濁を左手に掴んだシーツの端で拭きながら下へ。アルノーは自分の腹の上のルネの頭を、両手で撫ぜて髪の感触を楽しんだ。  皮膚色素の薄いアルノーの、薄桃色の中心の根元の申し訳程度の陰毛は、太さも量も心許ないものだった。ルネは後ろまでの全体を目で確認すると、もう一度自分の中心の先端部分に煉香油を付けた。アルノーに、は、は、は……と力を逃す息の仕方を見せてから、残った煉香油を付けた指二本をゆっくりと後ろに挿し込んだ。同時に今度は口ではなく、アルノーの中心に口付けた。  アルノーはううん……と力を入れたくなるのを堪えて、ルネがやってみせたように、は、は、は……と息をした。思わず身を捩りたくなったのをルネが完全にアルノーの中心を口に咥えて押し留めた。アルノーはルネの刺激で、ルネはそもそも直後の口付けで、お互いの中心は復活していた。折角勢いを逃す為に一度達したはずなのに、ルネは自分にしょうがねえなぁと思っていた。アルノーが美味そうすぎる。状況的にどう考えてもある程度の強度が必要だろうから、まぁいい、頃合いだな。  指も口も外したルネは、アルノーの腰の下に一つクッションを入れると、曲げた膝を割って、アルノーの後ろに自分の中心をゆっくり押し込んだ。息を詰めそうになるアルノーにもう一度、小刻みな呼吸をさせて、ゆっくり、ゆっくり。どうしても、指の長さより先は未開発で狭かった。それをそっと開いていく。ルネの方こそ、息を詰めるようにして進んでいた。  見ればアルノーが眉を寄せて耐えていた。君にこんな顔をさせているのは俺なんだな。ごめん、でも許して。  ルネは進むのを止めて、アルノーの寄せた眉に口付けた。涙ぐんだ目元へ。頬から耳元へ。唇へ。そして身を起こして、二人の繋がった部分を確認した。アルノーの、この縁の部分さえ無事なら、その先はそうそう怪我はしないはず。万全を期して、ルネは親指と人差し指で縁を押さえながら、またゆっくりと進んだ。  アルノーは齎される重苦しい痛みに耐えていた。ただ、同時にそんな痛みなど今だけで、気にかけるほどの物ではないだろうと思っていた。ルネが寄越す痛みや苦しみは、ルネがいないことに比べたら取るに足りない瑣末な事だ。ルネさえいればこれから、嬉しい事も楽しい事も二人で分け合える。ルネになら、たとえ殺されたって笑っていられる。もちろんその後、ルネに取り憑いて離れないけどね。  よし、成った。  ルネは完全な結合を確認すると、そのままじっと動かずにいた。アルノーのナカが落ち着くまで、じっとしている積もりだった。  アルノーがどうしたの?と、目を開けて、ルネの顔を見てからルネの腹筋をなぞった。肋骨の下のライン、横に割れた筋肉のライン、下にまっすぐ伸びた腹直筋を触られたところで限界だった。  それでも思いやりで欲望を押さえ込んで、ルネは精一杯ゆっくりと動くようにした。  「あ……、……ん……」  どうしようもない重苦しさと快感と不快感が混在して、アルノーは声を漏らした。  目の前のルネの顔を見て、微笑んで、ルネの首に両手をかけて口付けた。ルネが困ったような、辛いような顔をしていたから。  もう足りない物はない。二人は完全体だね。それを今誓い合ってるんだね。  果てて伸ばしたアルノーの、喉元にルネが誓いの印を残した。  月が二人を見守っていた。お互いの瞳をたびたび覗き込み、手を繋いで、口付けた。  静かに時が流れていった。  

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