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第27話 数百年分の幸せ ※
数百年分の幸せ ※
夢の様な夜の後、眩しい朝が来ていた。
手を繋いだままぐっすり眠っていた二人に、優しい朝の日差しが、戸棚のガラスに反射して顔を撫でた。新しい日の訪れだ。
アルノーは生まれてからずっと感じていたジリジリする想いが無くなって、満たされているのを実感した。
何も言わずに、お互い繋いでいない方の手で相手の髪を掻き分けて、瞳を見つめた。
アルノーはルネの懐かしい薄いブルーの瞳を。ルネはアルノーの藍に近い紫の瞳を。シャルルのヘーゼルの瞳の虹彩も綺麗だったけど、アルノーの切れ長のヴァイオレットアイズも綺麗だなと。戸棚のガラスに反射する光は、少し開けた窓の風に薄いカーテンが揺れるせいで、二人の瞳をキラキラ揺らしていた。瞳の真ん中に映る自分の姿を、微笑むお互いの顔を、ずっとみていられる。
今ここに数百年分の幸せが集まっているようだ。
口付けて、起き出して、口付けて、台所で軽く果物を食べて、さて身支度前に湯浴みをしようとバスルームへ。
お互いの魂の入れ物を朝の光の中で確認した。
ルネはおそらく今、城内で一番の長身だった。子供の頃から鍛えた騎士なので、脹脛も太腿も太すぎないが筋肉の形の分かる締まり方だった。首、肩、腕、背中に形良い筋肉、腹筋も腹斜筋も締まっている。アンリと同じ、髪はプラチナブロンド、目はアイスブルー、だが肌色はサンドベージュ。西の砂漠地方の血が入っているのかもしれない。
アルノーはシャルルと同じところはなかった。白磁の肌に真っ直ぐな長い黒髪、濃いヴァイオレットアイズ。ルネより首一つ近く低いが、それでも背は高い方。派手な筋肉はないが、全身に柔らかい筋肉が取り巻いていて無駄な肉はない。特に運動はしていないが、柔軟な体だった。
アルノーに傷跡は一つもないが、ルネには沢山あった。一つ一つ、キズの謂れを聞く。木登りをして落ちた時の傷。山歩きで沢に落ちた時、乗馬中に枝が当たった傷。訓練や戦闘時の傷。逢えなかった時のルネを愛しむように一つ一つに口付けたアルノーはふと、ルネの臍に気がつく。固い腹の筋肉の中のヘソ周りだけ、少し柔らかい。
「あー、それね。俺、小さい時デベソだったんだ。泣き虫で。体が大きくなって、臍は引っ込んだんだけど、なんかふわふわしてんの」
ルネは少し思い出しながら話を続けた。
「シャル〜って言って泣いてたらしい。あれ、シャルルを呼んでたのかも」
ルネにはゾエみたいな人がいなかったんだ。きっと心配した家族に封じられたんだな。
アルノーはルネの臍がとても愛しく感じられて、念入りな口付けを……。
「ちょ、臍は……」
「臍ってさ、生まれたらどこにも繋がってないと思うんだけど、なんか腹のどっかがモゾモゾすんだよねぇ……」
ルネが一・二歩下がって言った。アルノーはそんなルネの手首を握って、
「そうなんだ……腹のどっかなんだ?」
「え?おんなじ人?」
ルネがアルノーの人格を疑っている間に、アルノーはルネを引っ張ってベッドへ。
「いや、もう昼間で明るいんだけど……」
一応ルネはそうは言ってみたが、2人とも既に中心に兆しが見えていた。
そもそもアルノーは可愛いとか綺麗とか言われていても、しっかりと仕事をこなす皇帝であった。一つ聞いたら、百は察し。教えられなくても、大抵のことは目で見て、あるいは体験して覚える。そして、前世のシャルルとアンリは対等だったので、色んなことが『順番』だった。なので、次は自分の番だろうと思っている。
「え?もう応用編?」
ルネは思った。体が大きくなってからはbottomはやってないけど、うまくいかなかったら交代すればいいか。
結果的には、アルノーの美しさが全てを包み込んで凌いでいた。経験不足も体力的な問題も、アルノーのしっとり吸い付く肌がただただルネを奮い立たせた。その手に触れられれば次には、全身の肌を合わせたいと思うのだった。終盤、息をあげて前後に動くアルノーは窓からの陽の光を背中に浴びて、流れる汗も神々しかった。
アルノーが果てて、ルネに口付けるために被さってきた時に、一緒に動くサラサラの髪。倒れ込んで触れる胸の肌。体の重み。生きている事、愛し合える事を得心して、ルネもまた果てたのだった。
結局、皇宮に戻ったのは昼近くになった。
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