28 / 47
第28話 マリローズに叱られて
マリローズが待っていた。
皇宮に戻り、昨日の正装のままだったので、二人でルネの使っている部屋までルネの着替えを取りに行き、二人ともアルノーの部屋で着替えた。
なんだかもう、一刻も離れ難くて。平服のお互いにまた見惚れていると、着替え終わるのを待っていたかのようにドアがノックされた。
アルノーの侍従がマリローズ様がお待ちですと言って、二人をマリローズの部屋に連れて行った。テラスに四人分の昼食を用意して、マリローズとグルーディアス領領主シモン・ドラクールが待っていた。
ぴったり寄り添って現れた兄とルネをみたとたん、マリローズは
「なんて事!ブランシュ卿、貴方私の護衛を引き受けられたんでは無かったのですか?」
マリローズにそんなふうに叱られた事のないルネは、目を泳がせていた。
「そんな腑抜けた顔をなさって。これではとても警護を任せられません。これまでの努力、これからの未来、切り開いてきたことを無にするおつもりですか?」
アルノーまで一緒に叱られている気分だった。立場もなく浮かれすぎたよなぁ。でも待って、アンリが見つかったんだよ、マリローズ。
「そんな護衛は要りません! お兄様に差し上げますわ!」
きょとんと目を見合わせるルネとアルノー。
堪えきれずに笑い出すマリローズとシモン。
マリローズの鈴のような笑い声が青い空に響いて消えた。
「もういいから、お二人ともお掛けになって。食事しながらお話ししましょう」
ルネとアルノーが空いている席に座った。ルネが右側、アルノーが左側。
二人の様子を微笑んでみていたマリローズが言った。
「意地悪をしました。昔、意地悪するって言いましたから。お二人は、いいよって言ってましたよね?」
「え……」
「まさか……アナマリー?」
◇◆ ◇◆ ◇◆
その後は、食事をしながら話した。
アルノーとルネは本当に空腹だったので、安心したのもあって、パクパクと食べ始めた。ルネのテーブルマナーが更に酷いことになっていたけど、誰も気にしなかった。
「私とシモンに記憶が戻ったのが、二ヶ月くらい前なの」
マリローズも今日は平服。あまりヒラヒラしていない服を着ているけど、やっぱりキラキラしていた。グルーディアス領領主シモン・ドラクールはニコニコ話すマリローズをずっと微笑んで見つめていた。
「バリュティスの屋敷にグルーディアス領との共同作戦完了でシモンがルネと挨拶に来たの。その時に、挨拶の為に私の手を取って……。シモンはふらついたくらいで耐えたけど、私は倒れて、ルネが支えてくれたの」
アルノーとルネはまだまだ食べていたけど、マリローズとシモンはもうお茶を飲んでいた。
「あれはすごい衝撃よね。人一人に、もう一人分の記憶が追加されるの。」
ねぇ、と言ってルネを見る。肉を口に詰め込んだばかりのルネは声を出せず、何度か頷いて肯定した。
「まぁ、お兄様はずっとそうなんだから、大変だったわよね。あれ、二人が東方流民ではなかったことと、子供すぎたことが原因みたい。東方流民ではなかったから、魂は鳥に乗せられても巡り会うまで記憶を仕舞って置けなくて。あー……」
少し声を落として、マリローズは言った。
「子供すぎた、は……キスくらいしておけば良かったかも。誓いが強くなるから」
アルノーとルネは、今はもうそんな事どうだって良いくらい幸せだよ。って、お互いを目で見合った。
「これでも、記憶を取り戻してすぐにお兄様のところに来たんだから。シモンと話して、お父様とお母様を説得して」
マリローズは少し遠く、大聖堂の尖塔に飛び交う鳩を見てから言った。
「来て直ぐに言わなかったのは、ごめんなさい。意地悪したし、感動を盛り上げ……」
シモンがマリローズの手を握ったので、話が途切れた。
「多分だけど、私とルネが記憶を取り戻す前に惹かれていたのは、懐かしい感じがしたからだと思う」
「ほんとだ。今となっては兄妹みたいに感じる」
ルネもそう言った。
シモンとアルノーはそれぞれの伴侶の手をとって口付けて言った。
「共にいてくれる事が嬉しいんだ。ずっと一緒にいてくれ」
ともだちにシェアしよう!

