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第36話 女達と

なんて名前だっけ?  ライラに聞かれる。 「……シャヒーン」 「私はライラ、カリマ、ノーラ、サミーラよ」  全員、十代後半から二十代……かな。多分……。 「お風呂に入るわよ」 「え?」  蒸し風呂(ハマム)だった。宿屋に並んで、ハマムがあった。ハマムは男女別なんじゃない? 「湯気でそんなに分かんないわよ。この長い髪で隠しておきなさいよ」  あっという間に、四人に剥かれて入った蒸し風呂はほとんど貸切だった。 「この季節は行商も通らないし。女の客はあんまりいないわね」  アルノーは裸の女性を見たのは初めてだった。四人共肉感的なふるいつきたくなる様な魅力的な体つきなんだと思う。 「シャヒーン、全然反応しないわね」 「女がダメなの?それとも、シャハーブじゃなきゃダメなの?」  四人で並んで座っていた。綺麗だなとは思うけど、アルノーはそういう興味は皆無だった。 「シャハーブ以外全く興味ない。シャハーブだけいればいい」  女達はそれぞれ目配せして、呆れたような、羨ましいと言った様な顔をした。そんな恋とかしたいけど怖いわね。 「シャハーブとどこで知り合ったのよ?」 「幼馴染なんだ。この前、子供の頃以来、久しぶりに会ったんだ」  途中数百年はすっ飛ばして話した。 「よし、やるか」  ライラが声をかけて、全員で移動した。ハマムの中に大理石で出来たベッドの様なものがある。そこに寝る様に言われた。 「心配しなくても、襲ったりしないわよ。私たち、無理やりがどんなに酷いことか知ってるもの」  大理石はハマムの熱気で気持ちよく温まっていた。  俯せで腰にだけタオルを掛けられた。 「うわっ、この肌。薄くて透き通ってんじゃない?粗いやつじゃ傷つけそう。絹でやろうか」  四人がかりで絹の手袋で垢すりとマッサージ、オリーブの石鹸で全身洗いと、磨き上げられた。 「シャヒーン、身の委ね方が慣れてるわね」  皇宮にいれば、生まれてずっと侍女たちに洗われているので慣れている。無になるのがコツだ。  ずっとキャアキャア話していた四人が、アルノーの体のあちこちにあるルネの残した印を見て、 「シャハーブ、こんなやつだった?」 「いや、私たちは次があるから、気を遣ったでしょうよ」 「いいわね、所有の印」 「あ、じゃあシャヒーンも私たちと◯姉妹ってことで。シャハーブの喜ぶポイントを伝授しよ」  四人それぞれに技を授けてくれた。 「私たちそれぞれ、シャハーブに助けられたところがあるのよ。まぁもう、お客にはなってくれないんでしょうけど、何か返せればと思って」  もうすっかり姉妹のように四人の中に混じって話してるアルノーは、四人に香油を塗られている自分の姿が鏡に映って、可笑しくなった。  嫁に出される末娘に姉達が花嫁支度をするようだ。     ◆◇ ◆◇ ◆◇ かれこれ二時間近く、ルネは壁のヤモリを見ていた。  シーシャのフレーバーはもう2回変えた。アルノーが心配でそんなに酔えない。お腹が空いているかもしれない。少し部屋で食べられるものを容器に入れてもらった。あと、デーツとかイチジクとか。果物が好きだからな、アルノー……。  タタン!  ダンスの時の指で弾く太鼓の様な音楽が聴こえた。  ダラララララララ、タン!  おい、近いな。近くのテーブルでダンスを頼んだんだろうか?  顔を上げてみると、横の柱の影から、カリマとノーラが大きなスカーフを二人で広げて出てきた。  サミーラが太鼓を演奏している。    タンタンダラララ、タンタンダラララ……    スカーフから二人分の足が見えている。スカーフが取り払われて、踊り出すライラ。のけぞったり、下を向いたりすると、柔らかい豊満な胸が揺れる。ルネはその感触を知ってる。でももう触れたいとは思えない。いや、ちょっとは……なんか断れない機会があれば……。あれ、俺、すごく不安定なんじゃないか?この腕の中にアルノーさえいれば、完璧で、そんなこと思わないのに。  タンタタタン、タンタタタン  ライラの後ろで、ずっと背中を向けていたのは、アルノーだった。  長い黒髪のアルノーが薄い紫の上下を着ている。胸当てと、横に深いスリットのパンツ。シャラシャラ言う飾りがたくさん付いている。後ろを向いていたけど、振り向いて、ライラと踊り出す。  アルノー、今日初めて見た踊りなのに、上手すぎる。アルノー、関節柔らかいからなぁ。一番色白で、一番艶プルじゃねぇか。腰を回して、クイッ、腰を回して、クイッてのもうやめてくれ。  ルネの我慢が限界になる前に踊りが終わった。アルノーと四人が笑いながら、ルネの周りに座った。 「シャヒーン、なんで踊ってんの?」  泣きそうな声でルネが言った。 「この子、すごいよね。基本の型と少しのコツを教えただけなのに、すぐ出来る様になっちゃって」 「シャハーブ、ほら、ツルツルだよ。触って。お風呂で綺麗にしてもらったんだ」  アルノーに目の前に差し出された腕を見ながら、ルネは混乱していた。 「お風呂って……アル……シャヒーン、何してんだよぉ」  ルネは文句は言うけど、触り心地を堪能していた。 「うわっ、さらにしっとりしてる」 「シャハーブが身を固めた記念に、私たちからの心ばかりのお祝いだよ」  ニコニコ笑う4人とアルノーにルネは小さく呟いた。 「明日から砂漠越えだから、今日はそう言うこと出来ないんだよ……」                

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