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第45話 最後の宿
砂漠の周りの緑地帯を回って移動した
来る時は最短距離。砂漠を突っ切った。帰りは砂漠ではなく、その周りを遊牧民のように回って移動した。大きく回るので、移動に五、六倍かかる。砂漠移動よりは、気温も低く、砂嵐も無い。体に無理がないように熱い時間は昼寝。夜も寝ていた。移動は主に早朝から昼前と夕方近くから夜更けるまで。宿があれば宿も使う。
グルーディアス領のシモンの所に戻る予定だったが婚約式に間に合わないので、直接バリュティス領の領主館ヘ行くことにした。
ここは最後の宿。
昼前についた最後の宿はオアシスの宿とは違っていた。大きな岩場の上に砂漠に向かって建っていた。一つ一つの部屋が独立していた。部屋の中に風呂もトイレも台所もある。食事も全て部屋の中で摂れる。
ここで借りたラクダを返す。砂漠とバリュティス領を隔てる高い岩山はここで組み合ったように切れ、多少の高低差はあるがなんとか馬車一台通るくらいの道幅がある。遊牧民はここから、バリュティス領の草地に入り、アルノー達が行きに通った重なる不思議な岩の道からまた砂漠側へ戻る。ラクダを返したら、馬があることがわかって、借りることにした。馬はバリュティス領の領主館近くの宿屋に返す物なんだそうだ。渡りに船だ。ここで二、三日ゆっくりできる。
まずは食事。簡易的な食事は摂っていたが、ちゃんとした食事がしたい。それから風呂に入って砂と埃を流したい。
どちらも済まして、落ち着いたら夜になった。宿の大きな窓から砂漠を行く隊商の明かりが連なってるのが見える。昼間、二人が来た道をいくのかな?もっと砂漠の中の道をいくのかな?
アルノーが窓の景色を見ているとルネが後ろから肩を抱いてきた。
「ルネは何日も何日も砂漠を歩いたことある?」
「ありますよ。半月とかなら」
「辛い?」
「楽しくはないですね」
ルネの辛い時を慰めてあげたかった。その場にいたら、足でまといになっただろうし、なんなら人質に取られてルネを困らせそうだけど。
「じゃあ、今、慰めてください」
ルネがアルノーの後ろから肩に口付けた。アルノーは肩をすくめながらルネの髪を指に絡めた。
「ルネと一緒にいるために、誰かを殺さなくちゃならないって言われたらできる気がする」
アルノーが目を瞑ってルネの唇の感触を感じながら、
「ルネを苦しめる奴を殺せって言われたら、殺せる気がする」
ルネは、か弱そうに見えてアルノーはちゃんと皇帝だから、こうと思ったらやるんだろうなぁと思った。
「だからさ」
アルノーはルネの方に向き直って、
「ルネが自分で判断して。ルネを大事にしてくれる人とだけ付き合って」
「もちろんです。俺が付き合いたいのは、アルノーだけです」
いやもっと沢山の人と付き合うでしょ、仕事でも、家庭でも。でも、まぁいいや。
アルノーがルネの首に両手を絡めて、口付けた。深い深い口づけを。
どうやってルネを慰めようかなぁと考えた。誰に聞いた秘技を使うかなと思ってから、アルノーはアルノーの秘技をまだ見つけてないことに気がついた。そうだ、今夜はそれを探そう。自分だけのポイントを。
ルネが好きでルネの為ならなんでもできる皇帝アルノーのルネを喜ばせる必殺技。
そう思いながら、ルネの腕の中に潜り込むアルノーだった。
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