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●光に微笑む花の色⑤ 届かない叫び
柔らかいベッドの上で温かな布団に包まれ、魔法使いはいつ振りかわからない深い眠りについていた。
しかし、その意識は硬く冷たい檻の中で覚醒することとなる。目の前が暗くなるような絶望を感じながら、これは夢だと気がついた。
何回も見た夢だ。どれだけ、この光景のもとへ流されて来たことだろう。過去に体験した悲しみが、これからまた再生される。まるで逃れられないとあざ笑われているかのようだ。
冷たい檻は、脚をまっすぐ伸ばして座ることすらできないほど狭かった。彼を捕らえた者たちにとって、自分は家畜同然であることがよくわかる。
欲に目覚めた人間たちが魔法使いを狩るようになって長い年月が経ったけれど、数少ない生き残りは人里離れた場所で息をひそめながら暮らし続けていた。しかしそのわずかな安寧の地すら、結局は全て見つかって荒らされた。皆散り散りに売り飛ばされて、共に暮らしていた仲間たちがどうなったか知る術はない。
檻は、薄暗く埃っぽい場所に置かれていた。しばらくすると、地面が持ち上げられるように揺れ始める。一定間隔で続くそれの正体は波だ。ここは、海を進む船の、貨物室の中。
人間以下の存在に服など必要ないと言うかのように、身に着けていたものは捕らわれた際に全て奪われた。薄い鼠色の毛布が一枚だけ、情けで与えられている。裸よりはまだましだと、それで体を包んだ。
ふと、真横にも同じ大きさの檻が置かれていることに気づく。赤い毛布にくるまった誰かが、その中で震えていた。
「あなたも、魔法使い……?」
室内が暗いせいで顔立ちを捉えることは出来ないけれど、問いかけてきたか細い声は女性のものだった。舌っ足らずな響きが、若さと幼さのはざまを感じさせる。
ああ、と簡潔に肯定すると、彼女は柵の隙間から手を差し出してきた。
「わたし、――っていうの」
こんな状況下で、彼女は声を震わせながらも、名乗りながら握手を求めてくる。そんな気丈さを目の当たりにして、男の自分がへこたれているのが情けなくなった。
少しでも前を向こう。そう決意して、目の前の手を取る。とても細いけれど、ふわふわとした柔らかさも同時に感じた。
申し訳ないことに聞き取ることが出来なかった名前を、もう一度教えてもらおうと口を開く。その時だった。
「きゃっ……!」
船底が大きく持ち上げられ、二つの檻は大きく揺れた。その拍子に握り合った手は離れ、彼女は柵に頭を打ちつけた。
「だ、大丈夫か……?」
身を乗り出して、さすってやれないのがもどかしい。娘は大丈夫、と小さく答えたものの、その声は先程より更に弱弱しかった。
赤い毛布に縋りながらうつむく、小さな体。見ていられないほどに哀れな姿に、彼は自分が今持っている唯一のものを差し出した。
「これ……使ってくれ。少しは温かくなるだろう」
鼠色の毛布を体から外し、柵の隙間から差し入れる。
「あなたが……寒いでしょう」
「心配するな、このくらい平気だ。私は強いんだ」
男としてのプライドで、虚勢を張った。寒さに全身が粟立つけれど、このくらい耐えられると思った。
「……ありがとう」
泣き出すのをこらえるようにそう言いながら、娘が毛布を受け取る。ほんの少しの間の後で、彼女は自分が纏っていた毛布を、彼がしたのと同じように差し出してきた。
「いや、いらないよ。これじゃさっきと同じじだろう」
「ううん、あなたがくれたものの方がずっと温かいわ。だから、代わりに受け取って」
二つの毛布はただの色違いで、同じようにぺらぺらと薄い。けれど娘は、彼に貰った鼠色のそれに、まるで宝物のように頬ずりした。
ためらいながらも、娘のくれた赤い毛布を掴み上げたときだった。ひっくり返るのではないかと思うほどに、船底が大きく突き上げられた。周囲の貨物が、音を立てて崩れているのが見える。
安定しない船の床に大勢の足音が轟き、船乗りたちが一斉に貨物室へ入ってきた。
「大しけだ!できるだけ荷物を減らして、船を軽くしろ。いらないものは、全部海に捨てるんだ!」
一人の男がそう言うと、皆手当たり次第に何かを手にして駆け出していく。
巨大な波が、船を弄び続ける。檻は揺れるだけでは飽き足らず、床を滑って動くほどだった。じっとしていることなど到底できず、彼は倒れた拍子に頭を強く打ち付ける。
荒れた海に翻弄される船の中で、意識が遠のいていった。
次に目覚めた時、そこはもう海の上ではなかった。人影のないがらんどうの部屋に、この檻ひとつだけがぽつんと置かれている。無機質で窓のない、狭い室内を照らすのは、天井の裸電球ただ一つだ。牢屋の中で更に檻に入れられている、あまりにみじめな状況だ。
これは、実際に起きた過去を辿る夢だ。
だから、これから何が起こるのかもよく知っている。檻の中で、彼は縋るように赤い毛布を抱きしめた。
重そうなドアが開き、三人の男が部屋に入ってきた。二人は若く、一人はまだ老人と呼ぶほどの年齢ではないが、いささか年齢を重ねていた。
若い男たちは檻に歩み寄ると、乱暴な手つきで鍵を開け、魔法使いを外へ引きずり出した。膝をつかされ、背中に流れる長い髪を引っ張られる。二人がかりで腕を後ろ手に押さえつけられ、白く美しい裸体が余すところなく晒された。
かっちりとした服装に身を包んだ男たちの前で一人だけ丸裸でいる羞恥に、顔が歪む。逃げるどころか身をよじることも難しい状況に、ただ耐えるしかなかった。
「お前たち魔法使いは、何でも願いを叶えるのだろう」
正面に佇む男が、言葉を投げてくる。幾分年を取っているこの男が、若い二人の主人のようだった。
「……間違ってはいないが、条件がある。魔法使いが叶えるのは、主と認めた者の願いだ」
毅然と答えようとしたが、口が震えてうまく喋れなかった。
「なら、問題ないな。俺はお前を買い上げた。主に他ならないだろう。願いを叶えてもらおう」
「そういうことではない……。私が主だと認めなければ、願いは叶えられない」
「うるさい。ではさっさと認めろ」
平坦だった男の声に、苛立ちの色が混じり始めた。
「脅されても出来ない。私が心から、主だと認めなければ駄目だ。魔法使い自身にも、それは左右できない」
膝に感じる床の硬さに耐えながら、必死に説明する。その正面で、男は溜息をついた。
「……役に立たないな」
忌々しそうに、裸体をじろじろと見下ろす。そして八つ当たりするように、魔法使いを押さえつけている従者たちに向かって声を荒げた。
「そもそも、女を買い上げたはずなのに、どうして男が運ばれて来たんだ!」
「ああ、それはですね……」
片方の従者が答える。ヒステリーに慣れているのか、その声は淡々としていた。
「大しけで、少しでも船を軽くしようと荷物を海に投げたらしいんですが、女の魔法使いを入れた檻も捨ててしまったらしくて」
「もったいないことを。捨てるなら、男の方にすればよいのに」
「そのつもりが、船乗りが慌てていたせいで取り違えたみたいです。毛布の色が入れ替わってたとか、よくわからない言い訳してましたけど」
やれやれといった調子の説明を聞いて、愕然とした。既に冷え切っていた肌から、血の気が引いていく。
あの娘は、檻ごと海に捨てられたというのか。しかも、あの時毛布を取り換えたせいで、私たちは間違われて……?
大きな目に、涙が浮かぶ。押さえつけられているせいで拭うこともできず、それははらはらと零れ落ちた。
その姿を目の当たりにして、つまらなそうにしていた男の目に好色そうな火が灯る。煽情的な白磁の美貌に、非情な楽しみを見出したようだった。
「女の魔法使いで楽しもうと思っていたのに、予定が狂ったが……これだけ美しければ、お前でもいいか」
男の武骨な指が薄い胸元に伸び、小さな尖りを摘まむ。皮膚の薄い場所に触れられて、思わず声が上がる。
「ひっ……!」
反応を楽しむ様に、男は何度もそこを押しつぶした。
「……っ、いやだ、やめろっ……!」
捩ろうとした胴を従者に押さえつけされ、身じろぎすら許されない。男はそんな悲痛な姿を、興奮した目で眺めていた。
肌の感触を吟味しながら、手が次第に下へ降りていく。薄い茂みを経て、恐怖に縮んでいる性器を小突くように弾いた。尊いはずの場所が、玩具のように弄ばれ始める。
撫でるように何度もこすられ、先端をつつかれる。直接的な刺激を繰り返し与えられて、それは心とは裏腹にゆるゆると勃ち上がっていった。
「っう……、あぁっ、たのむ、もう……やめてっ……」
天を仰ぎ始めたそれは、なおも執拗に嬲られ続けた。ただ体を差し出しながら、途切れ途切れにやめてほしいと訴えることしかできない。
「お願いだ、もう、許してくれっ……」
「魔法使いとは、誇り高い存在と聞いていたが。随分と情けないんだな」
鈴口に滲んだ先走りが垂れ、男の手を濡らした。裏筋をなぞられ、その下にある二つの玉も形を確かめるように辿られた。
あまりの屈辱に、魔法使いは耐えられず目を閉じる。一体、いつまで続くのだろう。整わない息を吐きながら、そう思った時だった。
「ああっ、なにをっ……!」
思いもしなかった場所に刺激を感じ、悲鳴を上げた。男の指が更に進み、会陰を経て、秘された孔に触れたのだ。
閉じていた目が、こぼれるほど大きく見開かれた。硬く閉じられているそこをぐいぐいと押されて、体が跳ねる。
「これからだろう、楽しいのは」
そう告げた男の合図で、従者たちは白い肢体を床に倒した。うつ伏せにされ、尻だけ高く上げさせられる。それが乱暴な指によって左右に割られると、秘所が晒された。
「……いやだ……、みるなっ……」
二人の従者が体にのしかかるようにして、華奢な腕も細く長い足もがっちりと押さえてつけていた。だから冷たい床に頬をつけたまま、懇願することしか出来ない。
震え声の訴えもむなしく、後孔に吐息がかかる。じっくりと観察した後、男は孔の周りの襞に指先で触れた。爪で引っ搔かれると、哀れな魔法使いは泣き喚いた。
「ひっ、そこは……やめて……!やめてくれっ!」
「やめてほしければ、願いを叶えろ」
儚い叫びをかき消すように、男が言う。
「この世の全てを、俺の支配下に置け」
「……っ、できない、私は主の願いしか……叶えられないっ……」
「そうか、残念だ」
男が太い指を、小さな蕾に無理矢理ねじ込んだ。身を裂かれるような痛みが走る。
「ああああっ、いやだ、それ、ぬいてっ……」
悲痛な声を無視し、指は更に奥へ進んでいく。中を押し広げるように、乱暴に動かされた。
「うあああっ……、おねがいだ、ゆるしてっ」
「お前のせいだろう。お前が願いを叶えない役立たずだから、こういう目にあうんだ」
私のせいなのか。全部、私の……。
体は、わずかにも動かせない。痛みを逃す術すらない。
「……っう、いや、やだ……」
悲鳴を上げることすら絶え絶えになっていく美しい魔法使いを、男は責め続ける。ふと、体の奥で動いていた武骨な指が、不意にある一点をかすめた。
今まで経験したことのない感覚に、細い体が痙攣した。
「っ、それはっ……、やめてくれっ!」
性器を扱かれた時とはまた違う、存在さえ知らなかった快楽の種を暴かれる感覚。明らかにこれまでと様相の変わった声に、男の指はその一点を狙って弄ぶ。
「やっ、いやだっ……!それ、だめ、あああっ!」
無理矢理与えられる快感に、目の焦点が合わない。この身に残った最後の尊厳さえ奪われる恥辱の中で、殺された方がましだとすら思った。
「ああっ……!や、やめて、あぁっ!」
絶え間なく喘がされる中で、ふと、潤んで色彩しか分からなくなった視界の端に赤いものがちらりと映った。
共にここへ運ばれて来た、赤い毛布だ。
船で出会った娘のことが頭を過る。嵐の中で檻ごと海に捨てられて、どれだけ恐ろしかったことだろう。苦悶に満ちた、あまりに辛い最期だったに違いない。
男の指が蕾から抜かれる感覚に、我に返る。やっと終わったかに思われた地獄は、ここからが本番だった。
乱暴に慣らされた小さな孔に、熱い何かが当てがわれる。荒く興奮した息遣いが聞こえた。指よりもはるかに大きいものだ。これは、まさか……。
「や、やだっ……ああっ……」
猛った男根が、秘された場所にねじこまれる。ゆっくりと、しかし強引に、貫かれていく。
「ううっ、たすけてっ……だれか……!」
「誰が助けに来るというんだ?お前の主は俺だぞ」
欲望を更に奥へと突き刺し、男が嘲笑う。
ここは地獄だ。哀れな魔法使いは、すすり泣きながら思った。
凌辱に悶えながら、名前も分からない女の魔法使いが何回も脳裏に浮かんだ。毛布を交換しなければ、ここへ来ていたのはあの娘だった。恐怖と寒さに震えながらも、気丈に握手を求めてきた柔らかな肌を思い出す。ただ一瞬の出会いの中で、彼女の心の清らかさは十分すぎる程伝わった。
荒波に翻弄された生涯が終わった後で、海に住まう神はあの美しい魂を掬い上げてくれただろう。そして、もう二度と震えなくていい場所へ連れて行ってくれたはずだ。
運命が入れ替わってよかった。こんな地獄へ落ちたのが、彼女じゃなくて本当に良かった。
心配するな、このくらい平気だ。私は強いんだ。娘に虚勢を張るように目を見開き、滲んで何も見えずとも前を向いた。
視界が白む。体の感覚が消えていく。一つの夢が終わり、また別の夢へと飛ばされていく。
体を包んだ浮遊感の後で、次の夢が始まった。魔法使いは、先程とは打って変わった絢爛な部屋の中で意識を取り戻す。
身は清められ、豪奢な服を纏って立っている。足にぴったりと合う靴まで履かせてもらっていた。
ごてごてと装飾の多い服はいわゆるドレスというもので、明らかに女性用だった。それが気になるが、今までとは見違えるような好待遇だ。
「なんて美しいんだ。随分と難儀な戦争だったが、こんな宝を獲得したなら安いものだ」
魔法使いの新たな所有者となった男が、ドレス姿を眺めてうっとりとしている。いささか煌びやかすぎるこの部屋は、目の前で優美な笑みを浮かべている男の寝室だ。二人きりで居るには、あまりに広大だった。
過去に私を略奪した数多くの君主の中でも、この男のことは特によく覚えている。甘く優雅な顔立ちは美男と呼んでも差し支えなく、その体格は荒波に鍛えられた海洋国家の主たる屈強なものだった。願いを叶えるのには条件があるのだという話を聞いても激高しなかった人間は、この男が初めてだった。
「今までは、かなり手ひどく扱われて来たようだな。安心しろ、もう大丈夫だ」
目鼻立ちに不釣り合いなごつごつとした手が、柔らかな金髪を撫でる。魔法使いよりも背の高いその男は、頬を辿り、細い顎を持ち上げた。さも当然と言うかの如く、唇を重ねてくる。
「ひっ……!」
背筋に悪寒が走り、割り込んでこようとした舌に歯を立てた。
予期せぬ痛みに男は口元を押さえ、顔を背けた。ほんの少し、血が滲んだようだった。
麗しい笑みが彼方へ消え飛び、男は怒りに満ちた表情を浮かべた。信じられない力で腕を掴まれ、傍にあったベッドへ引き倒される。
「こんなに持て成してやったのに、調子に乗りやがって……!」
「離せ!私に触るな!」
「ああ、やかましい。大人しくしていれば、優しくしてやるものを」
巨大な体が、のしかかってくる。手首を握りこまれ、足を絡め取られた。互いの眉間が付くほど、顔を近づけられる。
恐怖に身がすくむ。しかし、四肢の自由を奪われても、強情に睨みつけた。男が面倒くさそうに、手首を掴む指に力を込める。骨がしなるほど、締め付けられた。
「うううっ……!」
痛い。ちぎれるんじゃないかと思うくらい、痛かった。しかし、このくらい耐えられる。両手なんかなくなったって、生きていける。誇りの方が、よっぽど大切だ。
「気高いのはよくわかった。でも、降参するなら早い方がいいぞ」
男は力を少しも緩めぬまま、真白い首筋へ嚙みついた。
薄い肌に、歯が刺さる。まるで捕食するかのように、その牙はどんどん深くめり込んだ。呼吸さえも痛みに変わる。
息が吸えない。
痛い。苦しい。怖い。もう、だめだ。生理的な涙を溢しながら、口を開いた。
「言う通りにっ……する……!」
途端、首筋も手首も解放された。咳き込むほどに息を乱す美貌を、君主が見下ろす。
「わかればいいんだ。いい子にしていれば、傷が増えることは無いからね」
屈服した魔法使いの体から、男は丁寧に服を取り去っていった。靴もドレスも全て外され、一糸まとわぬ姿で天井を仰ぐ。噛まれた首筋が、じんじんと熱を持っている。まるで隷属の刻印をされたように、もう拘束されていないのに体が動かなかった。
露になった胸元には、前の所有者たちに嬲られた跡が残っている。男はそれを不躾に眺め、淡色の小さな尖りを摘まんだ。
「っ、あっ……!」
「他の男の手垢で汚れているのは気に入らないが、美しさに免じて大目に見てやろう」
力任せに欲望をぶつけてきた者たちとは違い、男は手練れだった。慣れた手つきで、全身が愛撫される。やがて足をこれ以上ないほど大きく開かせられると、金色の茂みの下にある果実と蕾を、遠慮のない指でたっぷり責められた。
「ひっ……うぅっ……」
「恥ずかしがって声を堪える姿は愛らしいが、あんまり静かだと拒絶に感じられるな。嫌がっているなら、優しくしてやる必要なんて無いよなぁ」
心臓が跳ねる。先ほどの食らわれるような痛みが、思い出された。屈辱に打ちひしがれながら、虫唾が走るような言葉を喉の奥から絞り出す。
「き……気持ち、いいっ……」
「そうか、可愛い奴だ。しかしこんなにいじらしいのに、とんだ食わせ者なんだから驚きだ。一体いくつの国が、お前を巡って滅びたと思ってる?」
体の奥の敏感な場所を、巧みな指先が押しつぶす。痙攣しながら瞬くと、今までどれだけ流したかわからない涙が、また垂れた。
「何でも願いを叶えられると期待させ、毎回裏切ってきたんだろう。さながら悪魔だ。俺は寛大だから、お前みたいな罪深い奴のことも可愛がってやる。よかったな、嬉しいだろう?」
「ああ……うれしい……」
力ない言葉を聞いて、君主は満足げに笑い出した。
それからというもの、君主は昼夜問わず、暇さえあれば美しい肢体を愛撫した。力任せの情事しか知らなかった体は、その手技によって敏感で淫靡に作り変えられていった。
――助けて。
嬌声を上げる度、震える心が叫び出す。
少しでも男の気分を害せば、傷に傷を上書きされる、気の遠くなるような折檻が待っていた。日々凶悪な大きさの怒張で貫かれ、抗えない快楽に鳴き、時には自らそれをねだりながら、口には出さずに繰り返し叫んだ。
――助けて!
体は奪われ、誇りも砕けた。それでも、心だけは戦い続けた。
いっそ陥落してしまえば、楽になる。そう思いそうになるのを必死で奮い立たせ、いつまでもいつまでも叫んでいた。
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