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第11話 揺れる夜

週末の夜。 透の体調は完全に戻っていた。熱は下がり、食欲もある。 来週から出勤しても問題ないほどに回復している。 それでも部長は変わらず夜に現れた。 スーツを脱ぎ、冷徹な声を落とす。 「ベッドに行け」 「……もう大丈夫だから」 「そうだな。もう大丈夫そうだ」 透は反論できず、引かれるままにシーツの上へ。 *** 衣服を一つひとつ外され、肌を滑る布の感触が鮮明に残る。 乱暴さではなく、妙に優しい動き。 (……今日はそういう日か… …いつも丁寧だが、何か違う) 胸を撫でられるたび、背筋が震えた。 「声を我慢するな」 耳元に低い声。 「……っ」 「気持ちいいのか。答えろ」 指が這い、敏感な部分を捉える。 気持ちいいだなんて言えるわけもなく、透は唇を噛んで堪えようとしたが、喉の奥から声が漏れた。 「……あ……っ」 「いい声だ」 表情を変えずにそう告げ、さらに扱き上げる。 屈辱と快感が入り混じり、涙がにじむ。 「や……っ、いやだ……のに……」 「身体は正直だな」 リズムは緩められない。 透の指先がシーツを掴み、体が反り返る。 声を押し殺そうとするほど、喉は震えた。 「……ぁ、あ……っ!」 限界を越え、熱が迸る。 胸の奥まで痺れるような感覚に、涙が頬を伝った。 *** 荒い呼吸の中、視線を逸らした透の手首を掴み、部長がそれを自分の下へ導いた。 「……っ」 「わかるだろ?」 突きつけられた熱の硬さに、透は顔を赤くした。 「で、できない……」 「命令だ」 拒む隙はない。 震える指で触れると、部長の呼吸がわずかに乱れた。 無表情のままの顔。けれど確かに体温が高ぶっていくのが伝わる。 「……ん……」 透の手の中で脈打ち、硬さを増していく。 「もっと早く。そんなんじゃいつまでも終わらない。」 冷徹な声に追い立てられ、透は必死に動かす。 その瞬間、口元にかすかな笑みが浮かんだ。 やがて部長の肩が震え、短い吐息が漏れる。 「……っ」 透の胸が跳ねる。 一瞬の笑み。 冷徹で無表情な男が、確かに笑った。 (……今の……気のせい……?) 心臓が速くなり、頭が混乱する。 白濁が透の指に落ち、布に散った。 初めて、透の前で達したのは初めてだった。 部長は荒い呼吸を整えながら、冷たい声を返す。 「手洗ってこい」 命令口調。 けれど透の耳には、あの一瞬の笑みが残響して離れなかった。 初めて目の前で達した部長、そして一瞬だけ笑ったその顔が忘れられず手を洗って戻った今でもなんとも言えない顔でいた。 *** 布団を掛けられ、背を向けて瞼を閉じる。 (……笑ってた。俺に……? そんなはずない……) 気のせいだと打ち消しても、胸の鼓動は止まらない。 矛盾だらけの夜。 眠ろうとしても、あの笑みが瞼の裏に焼き付いていた。

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