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第15話 休日の誘い
翌朝。
目を覚ました透は、部長の姿を探した。
確かに抱きしめられていた感触、部長のシャツとパンツに身を包んでいる。
羞恥と混乱が胸を満たす。
顔を覆い、枕に沈めた。
情けなさで胸が焼ける。
けれど、不思議と体は軽かった。
リビングに出ると、テーブルには朝食が整えられていた。
トーストとスクランブルエッグ、温かいコーヒー。
部長は当たり前のように座り、カップを手にしている。
「……おはようございます」
かすれた声で言うと、部長は「座れ」と短く返した。
無言で食べ進めるうちに、透は「……ごちそうさまでした。俺、そろそろ――」と帰るつもりで口を開いた。
だが遮られる。
「……どこか行くか」
「……え?」
「外だ。カフェでもいい」
普段と変わらぬ冷徹な声音。だが中身が意外すぎて、透は返す言葉を失った。
「な、なんで……」
問いかけても答えはなく、
「行くなら支度しろ」とだけ返ってくる。
結局、否定の言葉は出なかった。
「……わかりました」
小さく頷く自分が情けなくて、唇を噛む。
***
車に揺られ、辿り着いたのは人通りの少ない路地にある小さなカフェだった。
木の扉を開けると、ベルが軽やかに鳴る。
暖かな香りに包まれ、奥の席に腰を下ろす。
「何にする」
メニューを差し出され、透は「……カフェラテで」と答えた。
運ばれてきたカップを覗くと、泡に小さなハートのアートが描かれていた。
「……可愛い」
思わず漏れた言葉に、自分で顔が熱くなる。
部長の視線を感じ、慌ててカップを口に運んだ。
(やばい……なに言ってんだ俺……)
さらにケーキが一皿だけ運ばれてきた。フォークが二本置かれる。
「……半分でいいだろう」
無表情に言われ、透は戸惑いながらフォークを受け取った。
たったそれだけで、胸の奥が妙にざわついた。
(……恋人みたいじゃないか……)
甘さに紛れ、思わず口が動いた。
「……俺を、どうしたいんですか」
ほんの一瞬、答えを期待してしまった。
だが部長は視線を逸らさず、冷たく言った。
「それはお前が考えることじゃない」
一瞬で空気が冷えた。
心臓が締め付けられる。
けれど透はふっと笑ってラテを口に運んだ。
「……そうですよね。俺が考えることじゃない」
開き直るように呟いたその声は震えていたが、しっかりと部長にも聞こえていた。
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