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第18話 静かな休日

動画の中で実況者が大げさに叫び、透は思わず吹き出してしまった。 「ぷっ……はは」 声を抑えきれず、笑みが漏れる。 その瞬間、横から視線を感じて振り向くと、部長がじっと透を見ていた。 「な、なんですか……」 「……そんな緩んだ顔、会社で見せるな」 低い声に、透の心臓が跳ねた。 「え……?」 「誰にも見せるな。……俺以外には」 嫉妬に滲んだ言葉。 いつもと同じ冷徹な言葉。支配… 「……っ、そんなの……しませんよ……」 口ごもった透は慌てて話題を逸らした。 「お、俺、ゲームなら結構やるんです! 休みの日とか、つい夜更かしするくらい」 「ゲーム?」 「あ、はい。シューティングとか対戦系のやつ。それなら絶対負けません!」 勢いのまま言い切り、さらに熱を帯びて口が滑った。 「……今度、俺の家で勝負しましょう!部長にだけは負けません!」 自分でも言い過ぎたと気づき、顔が熱くなる。 だが部長は少し目を細め、喉の奥で低 午前の光が差し込むリビング。 透はソファでスマホを再生し、YouTubeの笑い声に釣られて吹き出した。 その瞬間、部長の視線が横から突き刺さる。 「な、なんですか」 「……そんな緩んだ顔は、会社で見せるな」 「えっ」 「俺以外には見せるな」 淡々とした声なのに、嫉妬の色がにじんでいた。 透は耳まで赤くなり、慌てて話題を逸らす。 「お、俺、ゲームなら結構やります! 休みの日とか徹夜してしまうくらいで……」 「ゲーム?」 「はい。シューティングとか対戦系です。勝負なら絶対負けません!」 思わず熱が入り、透は勢いで言ってしまった。 「……今度、俺の家に来てください。部長にだけは負けませんから!」 部長の喉から、低く笑い声が漏れた。 「……本気か」 「本気です!」 「じゃあ、俺が勝ったら何をしてくれる」 「何でも!負けないので!」 「フッ……」 抑えきれずに笑うその顔は、初めて見る表情だった。 透は息を呑む。 (……こんな顔、誰にも見せないでほしい……) 胸がざわめき、落ち着かない。 *** 昼を過ぎると、それぞれ好きなように過ごした。 透は、部長の膝を枕にソファで動画を流し、部長は本を開いている。 会話はなくても、不思議と空気は満たされていた。 けれど、ふと気づいてしまう。 (……居心地がいい) 胸に広がる温かさに、透は息を詰めた。 (でも、ここは俺の居場所じゃない) その考えが全てを冷やした。そう思うと、この場から離れたくなる。 透は立ち上がり、カバンを手に取る。 「……そろそろ帰ります」 部長が本から視線を上げた。 「理由は」 「……邪魔だと思うので」 「誰が言ったんだ」 冷徹な声に足が止まる。 透は唇を噛み、胸の奥のざわめきを押さえられずに吐き出した。 「……部長との関係が、すごく嫌でした。でも、昨日も今日も楽しかったのも本当で……眠れたのも本当です。 一緒にいる空間が心地いいとさえ思いました。 だけど、ただ、それだけなんですよね。俺は部長の言いなりなんで……部長が居ろと言うならいます。 でも……いつ自由にしてもらえるんですか…」 沈黙。 やがて、低い声が落ちる。 「……自由にはしない」 「っ……」 「お前は、俺のものだ」 胸が潰れそうになる。 耐えきれず、透は小さく呟いた。 「……明日から、また言うこと聞きます。だから……今日はもう帰らせてください」 長い沈黙のあと、部長は本を閉じ、透を見据えた。 「……勝手にしろ」 突き放すようなその一言に、透は胸を締めつけられた。 自由になったはずなのに、足取りは重い。 玄関を出てもなお、背中に絡みつくように部長の視線が焼き付いて離れなかった。 (……解放されたはずなのに、なんで……) 自分でもわからない違和感を抱えたまま、透は夜の街に歩き出した。

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