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第20話 久々の呼び出し

金曜の夜。 「先輩、今日どうですか?」 悠に誘われ、駅近くの小さな居酒屋に入った。 唐揚げにレモンスカッシュ、悠は嬉しそうに目を輝かせている。 「僕、この一週間すごく充実してました。先輩と一緒に直した資料、ちゃんと役に立ったんですよ」 「そうか。よかったな」 「はい! ……これからも頑張るので、よろしくお願いします!」 正直、俺自身も少し救われていた。 呼び出しが途絶え、平穏な日常が戻りつつある。 悠と他愛ない会話をしていると、自分が“普通の先輩”に戻れたような気がした。 (これでいいんだ。俺はただ、こうして笑っていられれば――) 支払いを終えて店を出る。 夜風が熱を冷まし、心地よい。 「先輩、また月曜もお願いしますね!」 悠は軽く手を振って駅へと小走りで向かっていった。 その瞬間。 背後に刺さるような気配に、足が止まる。 振り返れば、暗い歩道の向こうに立つ影。 「……っ」 喉がひゅっと詰まる。 椎名――部長。 スーツの襟を整えたまま、冷徹な目でこちらを見ていた。 視線がぶつかり、背筋に冷たいものが走る。 (……なんで、ここに) 説明を求める間もなく、ポケットの中でスマホが震えた。 取り出すと、画面に浮かんだ二文字。 【来い】 鼓動が跳ねる。 しばらくなかったはずの、あの言葉。 (……やっぱり、終わってなかった) *** タクシーに揺られ、連れて来られたのはホテルではなく、あの部長のマンションだった。 扉を閉める音が重く響き、背中に冷たい視線が突き刺さる。 「……約束は守ってます。お酒は飲んでません。――」 必死に言葉を並べるが、返ってきた声は氷のように冷たい。 「俺が見たのは何だ」 「……え……」 「笑っていたな。あいつと」 言葉を失った。 反論する前に腕を掴まれ、強引に壁際へ追い詰められる。 「……っ、やめ――」 肩を押さえつけられ、無理やり目を合わせられる。 「……俺を避けて、他で笑うのか」 低く落ちる声に、体が強張った。 (違う……そういうんじゃ……) そう訴えようとしても 「……っ、や……」 必死に腕で突っぱねても、力は容赦なく絡みつく。 ベッドに押し倒され、シャツを引き剥がされる。 「部長、やめ……っ」 声は震えていた。 「嫌ならもっと、本気で拒めるだろ」 囁きは皮肉に濡れていた。 「……あ……っ」 羞恥と屈辱で喉が焼ける。 けれど、熱い掌が肌をなぞるたびに、身体は裏切るように震えてしまう。 「声を我慢するな」 冷徹にそう告げられ、胸の奥が潰れそうになる。 泣きそうになるほど屈辱的なのに、体は従順に反応してしまう。 (なんで……俺は……) これまで以上に強引で、逃げ場のない支配。 それでも、熱を帯びる身体を止められず、涙がこぼれた。 絶望と、どうしようもない熱が、胸の奥でぐちゃぐちゃに絡まっていた。

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