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第24話 触れられない夜
言い合いの夜から、週末の呼び出しは続いていた。
スマホに届く二文字【来い】。
その短さに変わりはない。
【自宅】から【来い】と言う命令形に戻ったとしても、何も考えないようにした。
それから、変わったことはまだある――もう、触れられることがなくなったことだった。
食卓に温かい料理が並び、部長は淡々と世話を焼いた。
「食え」
「風呂に入れ」
「寝ろ」
シャワーを浴びたあとは決まって椅子に座らされ、ドライヤーの音が響く。
丁寧に乾かされた髪に手が落ち着いたところで、ベッドに導かれた。
「寝ろ」
それで終わり。
***
透は布団の中で目を開けたまま、天井を見つめていた。
乱暴に扱われることも、腕枕で眠ることもない。
安心するはずだった。
このまま、解放に向かえばいいと思っていた。
なのに――。
(……苦しい)
背中に広がる布団の冷たさが、余計に心を締め付ける。
隣に部長がいないことが、こんなに寂しいと思ってしまう自分が許せなかった。
一度そう思ってしまえば、毎週の呼び出しが耐えがたい時間に変わった。
部長の自宅に呼ばれ、世話をされ、ベッドに寝かされる。
それだけで終わる夜。
「……どうして……」
誰に問うでもなく呟いた声が、闇に吸い込まれた。
触れられないことが怖くて、触れられることを待っている。
嫌悪していたはずの手を、今は欲している。
(依存してるのは……俺の方なのか……?)
混乱で頭がいっぱいになる。
答えは出ない。
ただ、胸の奥に溜まるざわめきは日に日に大きくなっていった。
***
何週間も同じ夜を繰り返すうちに、透は限界に近づいていた。
呼び出されるたび、部長の背中を目で追ってしまう。
「寝ろ」と言われて布団に押し込まれても、眠れることはほとんどなかった。
触れてほしいのか。
それとも拒まれたいのか。
自分でも分からない。
分からないまま、胸がざわつき続ける。
そして、とうとう涙が滲んだ。
理由も言葉もない涙。
ただ溢れるばかりの感情を持て余しながら、透はひとり布団の中で顔を覆った。
(……俺は……もう、どうしたら……)
そうして迎えた次の週末。
透の心は限界に達しようとしていた。
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