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煽情(せんじょう)
※性描写を含みます。苦手な方はご注意下さい。
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どのくらい寝たのだろうか。眠りから目を覚ますと、医務室は先程よりも更に静まり返っていた。
(あれ……もしかして誰も居ない……?)
気怠い身体を起こしカーテンを開けて辺りを見渡すが、誰も居らず人の気配も無い。時計を見ると昼休みの時間を少し過ぎていた。
「……はぁ……」
伸びをしようとした瞬間、全身を包む重い鈍痛と奥に残る微かな熱がまたしても蘇る。
「っ……!!」
喉の奥がキュッと詰まり思わず唇を噛む。シーツを握る指先に力が入る。脚を少し動かすと、全身に走る疼きが余韻を思い出させた。
(……もうダメだ……このままじゃ、俺……)
心臓がドクドクと早鐘を打ち、呼吸が徐々に浅くなる。息を詰め目を閉じるが収まらない。むしろ、その圧迫感で熱が増していく。脳裏に浮かぶ遙の端正な顔。低い声、熱い吐息、貫かれる感覚。
(……っ、クソ……バカ……アホ……!)
ゆっくりと横になり腰の辺りに手を滑らせる。そのまま下着の中に侵入し、弄る。本当はこんな事したくないのに、もう……止められない、止めたくない。そんな矛盾した衝動が、ジワジワと指先を動かす。
「……あっ、は……っ」
静寂した部屋の中、僅かに震える呼吸音だけが響く。熱を持ち主張するソレに指先で触れるたび、背中が小さく反り控えめな水音を奏でる。
(……何で、こんな……自分で……っ)
目尻に涙が溜まる。指は止まらず欲に突き動かされるように上下する。
「っ、あ、っ……ひぅっ……」
喉の奥から漏れる声。殺したくても、殺せない。呼吸は乱れ、頬が赤く染まり、自身を慰める手の速度が上がる。
(……もう、やだ……っ)
何度も頭の中で拒絶する声。しかし同時に、甘い快楽に溺れたい……という、どうしようもない欲に支配されていた。
「あ、あ……っ」
涙が頬を伝う。とうとう前だけでは足りず、後ろにも手を伸ばした。そんな機能は無いはずの箇所が、何故か既に潤っていた。
「う……っ、あ……やぁ……っ……」
そしてすぐに、その刺激だけで最後の一線を越える。
「や……だめ……イク……っ!!」
小さな絶頂が、静かな医務室の中で匠を飲み込んだ。
「……っ、は……っ、ぁ……」
震える肩、潤んだ琥珀の目、乱れた吐息。
(……バカ過ぎる……俺……もう、本当に……何やってんだろ……)
自嘲するように心の中で呟く。快楽の余韻に押し潰されそうになる前に濡れた指先で服を正し、そっと顔を伏せて呼吸を整える。下着が自分の白濁の液に濡れて不快なのと、自分を慰めた事で却って物足りなくなってしまった事実に、やるせなさを感じた。
「……はっ、は……っ……」
浅い呼吸が何とか通常に戻ってきた、その時。引き戸が静かに開く音がした。
(やべっ……帰ってきた……!)
咄嗟に布団を頭から被って目を閉じ、寝たフリを決め込む。心臓が暴れ、全身がまだ微かに熱を帯びているが、そんな事を気にしている場合ではない。
(危ねぇ……タイミング悪かったら死んでたぜ……)
しかし部屋に入ってきた足音は思っていたよりも重く、ゆったりとしたリズム。妙な違和感に襲われた。
(……さっきの女の人じゃなくて、別の人かな……)
空気が変わったような気がして、胸の奥がだんだんと冷たくなる。カーテン越しから、じっと見られているような感覚に匠の背中が一瞬で汗ばむ。気になって仕方なくなり、恐る恐るカーテンを開けてみる。
「……お早う、匠」
低く、熱を孕んだ声。
「えっ……!?」
視界に飛び込んできたのは何と、スーツ姿の遙。その青灰の瞳は静かに揺れながらも、奥底に狂おしいほどの執着を燃やしていた。
「……な、何で居んの……会社は……?」
「連絡を受けた。お前が魘 されて、更に体調不良と聞いてな」
低音での呟き。喉がヒュっと鳴る音が匠自身にも聞こえた。言い訳をする間もなく、カーテンが閉まり遙の手が匠の顔の輪郭をなぞる。
「ふむ……」
「な、何だよ……っ」
「……いや? ただ、顔が赤いな……と」
指が触れるたび、匠の身体がビクビクと反応する。
「っ、別に、もう平気だから……」
「……熱があるのか。どれ、測ってやろう……」
遙が僅かに口元を歪めた後、前髪をかきあげて額を合わせた。微笑みとも冷笑ともつかない、その表情を間近で見つめる匠。
「……確かに熱いが、これは発熱とは違うようだな」
「……は?」
「寧ろ熱いのは、ここか……」
静かに囁くと、遙は布団を一気に捲った。
「あっ……!!」
「ふふ……やはりな……」
潤んだ目、赤い頬、再び乱れ始める呼吸。そして震える太腿と、その間で主張を続ける熱。青灰の瞳が細められ、じわりと喉奥で笑い声を漏らす。
「可愛過ぎる……」
「や、やだ……」
「俺に連絡をくれた人に礼を言わんとな……」
その低声には、狂気と甘さが溶けていた。
「……据え膳食わぬは何とやら、だろう?」
「な……に、言って……」
匠の喉から、か細い声。遙の長い指が頬を優しく撫でる。その優しさの奥にあるのは紛れもない支配と執着。部屋の空気は息が詰まるほど重く、身体は甘く沈む気配しかしない。
「……幸い、今は誰も居ない」
遙の低い声が医務室の白い空間に落ちると、匠の背筋がビクンと震えた。
「や、やめろよ……ここ大学だぜ……っ、しかも……誰か来たら……」
「……その背徳感に興奮するだろう」
遙の指が、ゆっくりと太腿を撫で上げる。それだけで匠の腰が跳ね、喉から甘い声が小さく漏れる。
「……だっ、だめ……っ……!」
「病人なのに拒む余裕があるのか……」
青灰色の瞳が細められ冷たく光る。その瞳には既に理性など微塵も残っていなかった。
「……では、その気にさせてやろう」
大きな手が匠の両膝を掴み、強引に開かせる。
「……っ、いやだっ……!」
「……安心しろ、誰か来たら止めてやる」
「っ……ほ、ほんとに……? でも……やっぱりやだっ」
抵抗する腕を、遙が簡単に頭上へ押さえつける。その力強さに匠の心は焦燥と期待の狭間で揺れ動く。
「……ほら、ここは嫌とは言っていない……」
精液に塗れた下着を脱がされ、指先が濡れた秘部をなぞる。ぬちゃっ、と音が立つたび、匠の喉から悲鳴のような声が溢れる。
「やっ……いや……やめろ……っ」
遙は無言のまま、指を奥へと押し込む。
「っ、ひぅっ……っ!」
指先が中を掻き回す。何とか脚を閉じようとしてみるも、遙の身体が脚の間に割り込んでしまって不可能。完全に開かされたままだ。
「あっ……あぁ……っ……!」
「厭らしいな。大学で、こんなに感じて。全く……本当に可愛過ぎて困る……」
「う、るさい……っ、んなこというなら……やめろ……っ!」
必死に反論し、声が漏れないように唇を噛み締める匠。しかし、遙の長い指が更に深く沈み急所を執拗に擦られると全身が痙攣するように震え、声が出てしまう。
「やあっ……あっ……いやぁ……っ」
「……どうした、本当に嫌ならもっと抵抗してみろ。それとも、その気になってきたか?」
指の動きが激しくなり、ぬちゅぬちゅと音が響く。狭い医務室に、その卑猥な音と掠れた喘ぎが満ちる。
「やっ……だ、だめ……っ……!」
「お前の駄目は射精の合図だな……」
指を抜かれ、遙が腰を沈める体勢に変わり視界が暗くなる。
「……っ、いや……」
その弱々しい抵抗は無駄に終わる。舌舐めずりをしながら遙は昂った熱を露出させると、そのまま一気に匠の体内に侵入した。
「あっ! あぁあっ……!!」
喉から悲鳴のような、歓喜のような声が上がる。脚を震わせシーツをギュッと掴む匠。
「……欲しかったんだろう? 昨夜から、ずっと……」
「ち、ちが……うっ……!」
「ふふ……嘘を吐くのが最近の趣味か?」
妖艶な笑みを浮かべ容赦無く腰を打ち付ける遙。昼の静かな医務室に似つかわしくない、濡れた音と、肌と肌がぶつかる音が混ざり合う。
「っ、あっ、ひああぁっ……!」
「色々言っていたが満更でも無さそうだな……いつもより締まりが良い……」
その低音は甘く、底無しの溺愛が滲む。
「声を聞かせるも殺すも、お前次第だ。尤も、俺は聞きたいが。お前は俺だけのものだ……」
「や、だ……っ……!」
首を振り遙の腕を掴んで上目で見つめた。何を言っても無駄なので、せめて眼差しで訴える。
「……何だ、お強請 りのつもりか。良し、ご期待に応えよう」
「やっ……あ……ちがう……っ!」
逆効果だった。遙の動きは止まらないどころか、激しさを増す。
「……いやっ、あ、あぁん……だめぇ……っ!」
匠の声が悲鳴と快楽の境を越え、甘く溶けていく。
「……っ、あ、あっ……!」
家ではないベッドの上で貪られる匠。遙の腰が無遠慮に打ち付けられ、室内には粘りついたような音が響き続ける。
「あ、んぁ……っ……!」
「そんなに善がられると、俺も欲望を抑えるのが難しくなってしまうな……」
低音が耳奥に溶け、抵抗する腕は再度、簡単に押さえつけられた。視界は涙で歪み、もう何も見えない。
「声を聞きたい奴には聞かせてやれば良い……」
「……っ、や、だっ……!」
「ふふ……そうは言っても我慢出来ているのか?先程から、ずっと良い声で鳴いているようだが」
「や……あぁっ!」
その瞬間、引き戸が開く音。
「藤宮くん、具合はどう?」
保健師の女性の声。カーテンの向こうで足音が止まる。
「っ、あ、あのっ……いや……っ」
「……どうしたの!? 大丈夫!?」
慌てた声が聞こえるも、遙の動きは一切止まらない。
「ふむ、状況が変わった。発覚したら後が面倒だ……静かに出来るか?」
「む……り……やめ……ろっ……!」
匠の声は完全に裏返り、抑えようとすればするほど甘い喘ぎが微かに漏れる。
「藤宮くん、あのね? 事後報告になっちゃうけど、凄く具合が悪そうだったから緊急連絡先の方に連絡しておきました。迎えはまだ来てないかな? それと、一応具合を診ても良い?」
保健師がカーテンに手を掛けた。遙は耳元で低く囁く。
「見られてしまうな……どうする?」
「や……やだぁ……」
「……万事休す、か」
そうは言いつつ遙の熱が更に深く沈み、容赦無く奥を抉る。
「……あ、っ……だ、だれかきたら……やめるって、いったのに……っ」
「藤宮くん? 何か声が変だよ?」
「ひぅっ、あ……っ……!」
その声に答えようとするが、喉からは声にならない甘い音しか出ない。追い打ちのように遙の舌が耳を舐め上げてきた。
「そんな事を言った気もする。だが……絶対に止める、とは言っていない。ほら、それよりも頑張って声を抑えろ」
「ぁ……っ、く」
匠は限界まで声を殺し身を捩る。しかし、それを許さない遙が背中に腕を回し、強く抱き締め完全に動けないように固定した。
「本当に大丈夫……?」
「……っ、は……ぁ……っ……」
保健師は小さく溜め息をつくと、カーテンから手を離した。
「我慢出来なくなる前に呼んでね?」
足音が遠ざかる。匠の全身から一気に力が抜け、安堵で表情が緩む。それを見た遙は優しく微笑み、更に動きを深めた。
「危機一髪だったな。それにしても匠……凄く可愛かった……」
「ひ、ぁ……っ!」
「必死に声を殺す、その表情……最高だ」
「……もっ、や、やめ……てっ……!」
「止める訳が無いだろう。お前の中に出すまではな……」
また一度、どちゅっ、という音と共に深く打ち込まれる。
「ぁっ……あ、ぁぁぁっ……っ!」
静けさの中、匠の小さな喘ぎと結合部から鳴る濡れた音が響き始めた。声をいくら殺したところで、この水音でバレてしまうのではないかと匠は気が気ではなかった。
その後、何度繰り返したか分からないほどの律動がやっと止み、繋がった二人の身体が同時に痙攣すると無事に行為が終わった。
「……はぁ……っ、は……っ……」
乱れた呼吸を繰り返す匠。涙と汗で濡れた頬は赤く、視線は虚ろに宙を彷徨っている。
(……や、だ……もう……)
身体中が熱に犯され、指先まで震えが止まらない。そんな匠の身体を、遙は持参していたハンカチで淡々と綺麗に拭きあげる。
「……良し」
低く呟くと、匠の服の乱れを手際良く整える。怯えた琥珀の目を見て、髪を優しく撫でながら柔らかく笑う。
「良い子だ……」
「っ……」
声にならない声が喉奥で詰まる。匠の目から大きな涙が零れ落ちた。遙は、ゆっくりと立ち上がると何事も無かったように一息つき、カーテンに手を掛けた。
「……さて」
そして、カーテンを開く。
「申し訳ありません。迎えに来たのですが、いつの間にか転寝 してしまったようです」
「あっ、藤宮くんの保護者の方……ですよね?」
「保護者? まぁ、今はそういう事にしておきます」
保健師の女性は驚いたように目を見開き怪訝な顔をしたが、遙の冷静な表情と対応に、すぐに疑惑が解けたようだった。
「相当具合が悪いみたいなので、連れて帰ります」
「えっ、あ、やっぱりそうなんですね……連絡して良かったです」
保健師は視線を匠に向ける。匠本人は完全に呆然としていて、声を発するどころか、まともに目も合わせられないでいる。
「えぇ。連絡して頂き、本当に有難う御座いました」
穏やかに、しかし一切隙の無い表情で感謝の言葉を述べた。その姿は誰が見ても完璧な社会人、或いは頼れる保護者に映るだろう。
「藤宮くん、大丈夫? 無理しないでね。お家に帰ったらしっかり休んでね」
女性の優しい声が耳に届くが、匠は答える余裕すらなく、ただ小さく震えるだけ。遙は匠をそっと抱き起こすと、まるで大切な宝物を扱うように優しく支える。
「……さぁ、帰るぞ」
耳元で囁かれる低音。それはとても甘く、腰が砕けそうになる響き。
「っ……!」
視界が涙で滲む中、匠はただ、遙の逞しい腕に抱かれるしかなかった。
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