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結局俺はなすがままジーンズを一着、上着を二着買ってもらうことになってしまう。それも中々に良いお値段で…。いつか返すと言ったが、きっと晶は受け取ってくれないのだろう。晶はそういう人だと最近わかってきていた。 「あ、おい」 服屋を出て二人で他愛ない話をしながら歩いていると、後ろから声をかけられた。振り返れば赤茶けた髪をした男の人が立っている。晶の友達だろうか。 「佐藤…」 「なに今日暇だったんじゃん。勉強ってウソかよ」 「いや、暇じゃないし。でもまぁ嘘ついたのはごめん」 正解だったようで、佐藤と呼ばれたその人は晶の肩に腕を回し仲良さげに腕を組んだ。 「…で、誰?」 晶より大きい彼が俺を眼下に見る。見降ろされるとなかなかに怖く、俺は少し怖気づいてしまう。それにすぐに気づいた晶が蓑田さんから離れると俺を後ろに隠してくれた。 「威嚇すんな」 「威嚇してねぇ…匂いしねぇ、オメガ?ベータ?お前と一緒にいるってことはベータか」 「そうだよ、ベータ」 「名前も教えてくんねぇわけ?」 「言いたくねぇの」 本当に気安い関係のようで、晶は俺に話すより突き放した、いや、気が置けない感じで話している。それに俺はすこし、嫉妬した。なんでも知ってると思っても、結局は何も知らないのだ。 なんだか悲しくなってきた。そもそも晶はどうして俺をみんなに紹介したがらないのだろう。もしかして、友達と思われていないんじゃないか、なんて暗い思考に陥る。晶は誰にでも分け隔てなく付き合う性格なのに、俺に会うときは必ず時間を作ってくれる。それってもしかしなくても、紹介して恥ずかしい奴だとおもわれるのかもしれない。 俺はそれを証明するべく、晶の後ろから飛び出るとあの!と声を出した。 「俺、伊藤悠太っていいます!」 「お、元気。俺佐藤(かける)。アルファね。多い名字ランキング上位同士で仲良くしよ」 翔が俺に手を差し出してくれる。俺が手を握ろうとした瞬間、驚いた晶が慌てて俺を背に隠した。 「ちょっと」 その行動で、完全に俺は晶にとって自分は紹介して恥ずかしい奴なんだと思ってしまった。そっか、俺って晶にとって汚点なんだ。ほかの人と一緒に遊ばせてくれないのも、紹介してくれないのも俺がだめだからなんだ。でも俺の何がだめなんだろう。貧相に見えるとか?人を騙すように見えるとか? 俺がそんなことを思っているなんて露知らず、二人は楽し気に会話している。しかし翔が俺の顔を除こうとする度、晶が避ける。そして晶が俺を隠す度、俺は自尊心が傷つけられる。そんな構図が出来上がった。 そのうち翔が俺を諦め、まぁ今度遊ぼうぜと言って去って行った。晶はぼそりとなにかを呟くも俺の耳には届かない。 「悠、大丈夫…?」 振り返った晶が俺の顔を覗き込んでくる。 「…大丈夫」 「なんか、泣きそうな顔してる。あいつ勢いすごいからさ、ごめんな」 「うん、大丈夫」 ここで駄々をこねていても仕方ない。こうして遊んでくれるだけでもいいと思わなきゃ。それでも心のどこかでもう会わないでおこうという気持ちが湧いていた。 俺は一度下を向いて深呼吸すると、ぱっと顔を上げて今度は何する?と晶に聞いた。晶は少し俺の顔を窺って、でも何も言わずに、ご飯食べようと言ってくれた。今日だけでも楽しむために、俺は大きくうなずいた。

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