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痛みで携帯を落とし、何事かと振り返れば―優がいた。
目を見開き名前を小さく呼べば、ぐいぐいと引きずられてコンビニの裏手に連れてこられる。そのまま壁に押し付けられ、顔を近づけられた。
「ひさしぶり、悠太」
「な、なんで、サチさんは…」
「バカな悠太。あれは俺だよ。あんなことがあったってのにまだマッチングアプリなんか続けてさ…ほんとバカだよね」
騙されたんだ。すぐに気づき、暴れる。しかし優の力は強く動けなかった。そうだ、優はアルファだったんだ。
「お前を逃がしたせいで俺はあいつらのグループから外されちゃってさ…アルファの、特に優れたものが選ばれるグループだったんだよ。それを、お前が逃げたせいで!!」
怒声を浴びせられ俺はひっと悲鳴をあげ縮み上がった。必死でもがいて逃げようとするけど、全く通じてない。こんな時に自分がベータであることを思い知らされるなんて思いもしなかった。
優は怒鳴って少しすっきりしたのか、しかし興奮冷めやらぬギラギラした目で俺を睨めつける。
「それでね…俺はどうにか戻れませんかって懇願したんだ。そしたらお前をもう一度捕まえて薬の効果を調べてくれば戻してやらないこともないって」
それから優は語る。何度も街を見張ってようやく俺を見つけた、と。なのに俺の近くにはいつもアルファがいて近づけなかった。家を尾行することすらできないまま日にちが過ぎ、グループからそろそろ期限だと言われ焦り、一縷の望みをかけてアプリでサチになりすまし俺に近づいた。
「バカなお前はそれに気づきもせずここに来た。ほんとうに愛おしくて…バカなやつだ」
何度バカと罵られただろう。でも自分でもそう思う。俺はバカだ。晶が警戒して俺と一緒にいてくれたのに、俺はそれを自分から遠ざけてのこのここうして優の手の内に収まってしまった。これじゃ、晶が守ってくれた意味がない。ごめん、晶。
俺は最後の力を振り絞って優の腕にまた噛みつく。軽く唸った優だが、今回は突き飛ばしたリせず俺の頬を殴ってきた。口の中で血の味がした。
「今度は逃がさねぇ…」
「っ、誰か!」
コンビニの裏手じゃ、誰も来ないかもしれない。それでも俺は必死に叫んだ。誰か助けてください、と。再び優の腕が振り上げられ、また殴られる…と身を固くした瞬間。
「そうだ、これ…」
優が腕を下ろし、ポケットから小さな小瓶を取り出した。優はそれのキャップを開け口に含むと、俺の顎を掴み、俺の唇に自身の唇を合わせてきた。キスというにはあまりに乱暴なそれ。口移しで中身が俺の口に流し込まれる。飲んでやるものか、と嚥下しそうになる喉をこらえていると、優が鼻を片手で塞いできた。息が、苦しくなる。気が遠くなりそうになった時、こくんと喉が小さく動いてしまう。そのまま中身はすべて俺に注がれ、優が口を離した時には俺は口の中の物すべてを飲み込んでしまっていた。甘ったるい味に思わず眉を顰めゲホゲホと咳を繰り返していると、優が高らかに笑い声をあげた。
「飲んだ、飲んだな!」
「げほ…なに、これ」
「この間話した媚薬さ…お前も知っているだろう」
「はっ…」
慌てて口の中に手を突っ込み吐き出そうとする。でも吸収率がいいのか、すでに胃の中からなにも出てこなかった。
「さぁ来い!お前の乱れた姿を録画してやらないとな…」
「や、やだ!誰か!!」
「黙れよ!」
優の間の手がまた、俺に伸びてくる。本気でまずい、誰か助けて…!
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