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「あの、何してるんすか」
その時。声を、かけられた。驚いた優が振り返る。俺は壁に押し付けられ咄嗟に口元を塞がれてしまい、もごもごと口を動かすしかなかった。視線だけ動かせば、コンビニの制服を着た背の高い男性がそこに立っている。どうやら俺と優の騒ぎを聞きつけてきてくれたらしかった。優は俺をじろりと睨みつけ、何も言うなよと目だけで釘を刺す。
「な、なにって…ちょっとした痴話喧嘩ですよ。気にしないで」
「んー!!」
「黙ってろって」
「ん、んぅ…っ」
「そうすか…」
さらに強く塞がれ、息が苦しくなる。このままではいけない、相手が丸め込まれてしまう。そう感じた俺は火事場の馬鹿力で優を思いっきり突き飛ばすと、駆け出し、声をかけてくれた相手に縋り付いた。
「すみません、すみませんっ、助けてくださいっ」
「えっ、あの」
「お前!人を巻き込むのはねぇだろ…ほら、戻って来いって」
優はまだ痴話喧嘩を押し通すつもりなのか、両手を広げて俺の方に近づいてくる。
「あの人、えっと、やばい人で!薬とか飲まされてそれであの」
言葉がうまく出てこない。支離滅裂なままなんとか伝えようとすると、相手があれ?と声を出した。
「伊藤ちゃん?」
呼ばれなれないその名前に改めて相手を見れば、数週間前に会った翔だった。翔は俺の顔を覗き込むと、どしたんと聞いてくれる。俺はいくらか安堵し、けれども状況は悪いからと再度状況を説明する。
「そこにいるやつに、その、犯されそうで…、っ助けてください!」
「あ?なにそれ、どゆこと」
翔が顔を顰めて俺の後ろにいる優を睨む。睨まれた本人はというと怖気づいたかのようにじりじりと後ずさる。しかし優は逃げることはせず、そいつを渡せと翔に言ってきた。この期に及んでまだ俺を諦めきれないらしい。
「いやレイプ犯に渡すわけねぇだろ。警察突き出してやるからこっち来いよ」
「それじゃダメなんだ、それじゃ…俺はあのグループにいなきゃならないんだ。俺はトップに君臨する男なんだ…」
なにかをぼそぼそと呟き続ける優。俺はそんな彼に異常性を感じ、翔の服を思わず掴んだ。そして次の瞬間、優が翔になぐりかかってきた。
「あぶなっ」
「よっと」
俺が危ないと叫ぼうとした時には翔はひょいと俺を支えたまま優を避けていた。優は勢いよく俺たちの後ろにぐしゃりと倒れこみ、動かなくなった。どうやら結構な勢いで飛び込んできたため反動でどこかを痛めて動けなくなってしまったようだった。
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