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そのまま翔は優の腕を後ろ手に捻りあげ、手に持っていたメジャーで括りあげた。そして警察が呼ばれ、俺があれだけ抵抗しても無意味だったのに優はあっさり連行されて行った。 その後晶が来てくれた。翔が呼んでくれたらしく、バックヤードで恐怖から浅い呼吸を繰り返していた俺を晶はすぐに抱きしめてくれる。その抱擁に安堵した俺は最初に助けてくれた時のように泣いてしまった。 「悠…悠…大丈夫だよ、もう大丈夫だから」 優しく背中を撫でられると、さらに声が大きくなる。本当に、怖かった。 「さ、あがって」 「お邪魔します」 晶が俺の背を押して部屋に入れてくれる。この部屋に来るのは二度目だった。 「お茶入れるな。あったかいのでいい?」 「あ、うん…ありがとう」 きっと焦って出てきてくれたのだろう、部屋着が散乱しており、部屋は暖房が付きっぱなしで暖かかった。部屋着はいつも畳んで置く、部屋を出るときはちゃんと暖房を切る、という几帳面な晶にはありえない光景がそこには広がっている。 俺はソファーに座らせてもらい、晶が来るのを待った。少しすると晶が両手にマグカップを持ってリビングにやってきた。はい、とカップを渡され礼を言う。お茶を口に含めば、外で冷め切った体が温まるのを感じた。 「聞いて、いい?」 恐る恐るといった風に晶が尋ねてくる。俺が頷くと、晶は何があったのとと言った。だから俺は、アプリでサチという男性と会う予定だったこと、実際はそれは優が成り済ました姿だったこと、アルファのグループから外された優が憤って俺に薬を飲ませたこと…すべてを話した。晶は相変わらず口を挟まず聞いてくれて、最後に俺がため息を吐き出すとそっと手を握ることだけをしてくれる。 「ほんとに俺バカで、晶がまさか自分を守ってくれているなんておもってなかった…ごめん」 「いや…俺こそ、事情話さなくてごめん。怖がらせるかなって思って、言い出せなかった」 「ううん、俺が、晶を疑ったのが悪いから」 「疑った…?」 晶が首を傾げる。 「うん、俺、晶がなんで俺と一緒にいてくれているのかわからなくて…。俺が貧相なベータだから一緒にいてくれているのかなとか考えたりして…」 「そんなことない!俺が悠と一緒にいるのは…」 言い淀む晶。わかっている、晶は俺を守ってくれるために一緒にいてくれたんだ。 「優も捕まったし、もういいんだよ晶。俺と一緒にいてくれなくてもだいじょ、」 一緒にいてくれなくても大丈夫、そう言おうとして――晶に抱きしめられ、それ以上の言葉を紡ぐことが出来なくなってしまった。

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