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どうしてこのタイミングで抱きしめられているのだろう、と冷静に考えてしまう。もう何度も晶に抱きしめられたせいだ。 俺に縋り付くように抱きしめていた晶はそっと顔を上げると、俺にキスをしてきた。体が離れる瞬間肩をびくつかせる。 「なん、で」 「なぁ、悠。俺じゃダメ?」 俺じゃ、ダメ?なにが? 晶の本心が見えなくて固まったままでいると晶はまた言葉を紡ぐ。 「俺、悠のこと好きだよ」 「なに、言って。だって晶は…」 だって晶はアルファで、オメガと結ばれる運命で。 俺が言わんとすることがわかったのか、晶はヒロちゃん言ってなかったけ、俺はベータたらしだって、と言う。 「俺、オメガが苦手なんだ。付き合いとしてはオメガとも友達になることはあるけど…恋愛対象はベータ男性だよ」 目を合わせてそういわれるも、自分が好かれる理由がわからずぽかんと口を開けてしまう。晶は小さくため息をついて、自分の持っていたカップと俺のカップを取るとテーブルの上に置き、俺の体ごと自分の方に向けさせた。 「会ったとき言ったよね。悠は他とは違うって」 「でも、それは物珍しいって意味じゃ」 「それもあった。でもそれ以上に悠に惹かれてたんだ。…悠と何度か会うたびにどんどん好きになっていったんだ。確かに悠を守るために会っていたことはもちろんそうだよ。でも、でもね、悠のことが好きだから会っていたかったんだよ」 徐々に頬が赤くなる。そんなに晶に好かれていたなんて。それに自分の鈍感さにも恥ずかしくなる。こんなに好きだと思われていたのに晶はどうして俺と一緒にいるんだろうなんて疑って…俺、バカ過ぎない? 晶は俺の頬が赤くなるのをじっと見て確認すると、やっと通じたと呟いた。 「悠は、俺のことどう思ってるの」 「…」 「悠?」 「好き、だよ」 そう、好きだ。俺は晶のことが好きだ。自分の知らない人と会う晶に嫉妬してしまうくらいには、晶のことが好きになっていた。俺は晶にとってなんなのだろうと悩んでしまうくらい、好きなんだ。自覚すると今まで考えていたことがバカみたいに視界が晴れた。 「好き…俺は、晶のことが好き」 「よ、かったぁ」 がくっと晶が首を項垂れさせる。 「ここで好きじゃない、何の感情もない、なんて言われたら泣いちゃうところだった」 「な、悩ませてごめん。ちゃんと好きだよ」 「うん、うん…ありがとう」 晶は膝に置かれた俺の両手を握ると、そのままギュギュっと優しく握りしめてきた。さらに頬が赤くなる。というか体がぽかぽかしてくる。両想いってこんなに体まで温かくなるものなんだな、なんて思っていると晶が悠、どうしたのと聞いてきた。俺は首を振ってなんでもないと言う。 「ただ、両想いってこんなに心が温まるものなんだって思って…」 「うん、そうだね…」 確かに高校の時には恋人がいたこともある。でもみな一様に”やっぱりオメガがいい”と去って行ってしまうのだ。だから両想いらしい両想いになったことがなく、こうして晶ときちんと両想いになれるのは嬉しかった。 にしてもさっきから体が熱い。というか、なんか下半身がむずむずする。好きだって言われたからって急にそんな性欲に直結するものかな、と心の中で首をかしげる。でもそれは晶にもバレてしまっていた。 「悠、顔赤い。ほんとに大丈夫…?」 「なんか、熱い…」 「…もしかして」 晶が俺をぎゅっと抱きしめ、するりと背中を撫でてきた途端俺はあられもない声を上げた。な、なにこれ?! 俺が目を白黒させていると晶がさっきの薬だ、と呟いた。 「薬…?」 「あのくそ野郎に飲まされた薬だよ。これ、強制発情剤だ…」 ”ベータでも後ろが濡れてオメガみたいに乱れてしまう薬”…そうだ、俺はそれを飲まされたんだった。こんなに効果があるなんて。実感してしまうと下半身の違和感がどんどん強まるのを感じた。 ―挿れて欲しい そんな感情で脳内が埋め尽くされていく。 俺はそれが酷くいやらしいものに感じて、嫌になって晶から離れようとした。でも晶は離すどころか俺をさらに強く抱きしめてくる。 「…、悠、それは多分誰かに抱いてもらわないとつらいよ」 「だ、抱いてもらうって」 そう言ったって、この場にいるのは晶だけで。でも自分たちは今さっき丁度両想いになったばっかりで、だって、そんな…。 俺が小さく首を振ると、晶が俺の首元に鼻先を埋めいい匂いと言う。 「まって、あきら」 「だめだ、悠。悠が欲しい」 晶はアルファらしく俺を抱きしめたまま持ち上げると、あの時寝かされていた寝室に入って行った。そしてそのまま俺をベッドに寝かせると覆いかぶさってきた。俺はだめ、と力の入らない手で晶を押す。彼はその手を取り、手のひらに口づける。 「大丈夫、悠太。大好きだよ」 晶が俺の服に手をかける。 そうして俺は、番になれない俺たちは一晩をベッドの上で過ごすことになる。

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