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あくる日、晶からそろそろ同棲しないかと言われ物件を見に行った帰りのことだった。二人で手を繋いで物件の話をしていた。
「今日の物件どうだった?」
「やっぱりエアコンつけないといけないのがマイナス点だなぁ」
今日見に行った物件は3LDKの中々に良い物件だった。二部屋はそれぞれ自分の部屋にするとして、狭い一部屋は物置として利用しようか、なんて言っていてたけど、エアコンが備え付けじゃないのが難点だった。晶もその点が気に入っていないみたいで、うぅんと頭を悩ませている。
「それはそうだよなぁ…やっぱり別の物件を見に行こう」
その言葉にうなずく。今度休みを合わせてもう一度別の不動産屋で情報を見に行こう。今日は帰って炬燵でアイスを食べよう。
そんな話をしていた折、大きな交差点に差し掛かった。信号が青になり、渡ろうとすると晶がぴたりと足を止めた。信号は青なのに、彼は動こうとしない。どうしたのと声をかけようして、同じく横断歩道の向こう側で固まっている男の子を見つけた。男の子は、じっと晶のことを見ている。男の子は薄い髪色で、幼げ顔をしていた。彼は目を見開いて、ゆっくりと腕を上げる。まるでなにかに縋り付こうとしている姿に不気味さを感じた俺は晶の名前を呼んで腕を引っ張った。すると晶ははっとした顔をして、俺の顔を見、横断歩道の彼を見、再度俺の俺を見てくるりと踵を返して来た道を戻ってしまう。何度声をかけても晶は反応してくれなくて、さっきの不動産屋のところまで来て俺が今までで一番大きく名前を呼んでようやく止まってくれた。
「ど、どうしたの…?」
顔を窺えば、晶は気まずそうな顔をして、でも俺に悟られまいとするように何でもないよと笑ってくれた。こういう時の晶は何を言っても答えてくれないってわかってるから俺は深く聞くことはなかった。でも、俺の中でその日の光景は脳裏に焼き付いて離れないものとなる。
あれ以来晶はどこかぼーっとしていて、俺の声に返事しないことが増えた。どうしたの、とやっぱり聞いても答えてくれない。晶は俺を不安にさせまいとなにかを黙っていることもあるから、今回はそれなんだろうと思う。でもどうにも俺は嫌な予感がして気が気でなかった。あの男が関わっているのか、とも思ったけど、晶の友達にあのような男はいなかったような気がする。誰なのか、そう聞いてもやはり晶は答えてくれなかった。
晶が好きだった俺は、それ以上聞くことはなかった。
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