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その日は朝から大忙しだった。理由は簡単、引っ越しのためだ。一か月後は意外にも早く来て、俺たちは新しい家に住むことになる。俺の荷物が運び出され先に新居に着き、二時間ほど荷解きをしているとインターホンが鳴り、晶の荷物が届いた。その後は日が暮れるまで延々と二人で荷解きをしていた。といっても、冬の日暮れは早い。俺たちは生活に必要なものだけを片付けてその日の片づけを終了させた。
「冬なのに汗かいたー!」
どソファーに座った俺の隣に晶がどかっと腰を下ろす。このソファーは晶が家から持ってきたものだ。何度も座ったことがあるため座り慣れている。
「塩飴とか買っといた方がよかったかもね」
「そうだなー」
タオルを首にかけた晶が俺の肩にもたれかかる。ほんのり塩の匂いがして、俺は晶汗くさーいとふざけて言った。途端、晶がごろんと俺をソファーに押し倒してきた。悪い顔をしている彼は俺の服を少し持ち上げてくんくんと嗅いでくる。その仕草がくすぐったくて俺はあははと笑って体を捻った。彼は服から顔を出し、にやっとして悠も汗臭いと言った。
「あ、言ったな!晶の方が汗かいてるもん!」
「いやいや、悠も変わんねぇって」
今度は脇に鼻を突っ込まれる。さっきよりこそばくて俺はまた笑い声をあげた。そのうち汗が引いてきて、冷静になって、二人ともソファーに座り直した。それから、ふと前に言われたことを思い出す。
「ねぇ晶。アルファとオメガって特有の匂いを嗅ぎ分けられるって言うじゃん。あれってどんな匂いなの」
「どんな匂い…」
晶は斜め上を向いてうぅんと悩んだ後、それぞれ違った匂いがある、と言った。
「例えば佐藤。あいつはフルーティーな匂いがする」
「フルーティー…」
「この間ヒロのところでお酒奢ってくれた男の人は苦い匂い…ビターチョコレートみたいな匂いがした」
「なるほど」
「あとは雪。あの子は名前の通り降り積もった雪の匂いがする」
「…へぇ、おもしろいね」
そうだろ、と晶が笑う。俺も笑っておいたけど、内心穏やかじゃなかった。まるでつい最近会ったみたいに覚えているんだね、とはさすがに言えない。だって晶はそんな不誠実なことはしない。きっと随分前に会ったときの記憶を脳がはっきり覚えてしまっているだけだろう…彼らは運命の番なのだから。
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