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メニュー表が紙だが注文はタブレットでするらしく、最近はなんでもデジタル化だねなんて話す。牛タン、カルビ、ハラミ…と思い思いにメニューを決めてタブレットに入力していった。そのうち肉が届き、最初は無言で食べ連ねる。晶は食べないけど、俺は米がないと食べ続けられないため途中で米も注文した。腹がいっぱいになってくると会話が出てきて話すようになる。 「伊藤くんって美味しいお店いっぱい知ってるよね、すごい」 「いろんなバイト掛け持ちしてるからその辺の情報はたくさん入ってくるんだって言ってたな」 そうなんんだ、と言って肉を一つ摘まむ。俺は段々お腹が張ってきたが、晶はまだ食べるだろう。これはアルファとベータの違いかな、なんて思ったり。俺がデザートの欄を見ていると、晶はやはり食べるみたいで牛タン注文して、と言われた。言われた通り注文すると、晶がようやく箸を止めた。 「悠、一緒に暮らすにあたってルールとか決めといた方がいいんじゃない?」 「ルール…たしかに。ご飯はどうする?当番制?」 「それでいいと思う。帰る途中で雑貨屋に寄ろう。手作りのルーレット作ろうぜ」 にかっと笑う晶。晶は手作りのものが好きだ。今つけている一年記念のペアリングは晶が工房に通ってわざわざ作ってくれたものだ。少し武骨で、けれども温かみのある曲線が含まれた指輪。でも結婚指輪はちゃんと高いものをやるから!と言われた時は笑ってしまった。どうやらその辺の線引きはちゃんとしているらしい。 晶らしい、と俺が笑ってそうしようと言うとまた肉が届いた。 肉を食べない俺はその後焼き係に徹し、晶がもう食べれないと言うまで肉を焼き続けた。 「お腹いっぱい!」 「翔が言うだけあってやっぱり美味しかったな」 そう話しながら会計のために席を立つ。後ろにいる俺の方を向きながら話す晶に危ないよと声をかけようとして、案の定彼は前から来た人とぶつかってしまう。この先はトイレしかないためトイレに立ったお客さんだろう。 「あ、やべ…すみません」 「こちらこそごめんなさい!」 謝った声に聞き覚えがあった。嫌な予感がしつつ晶とぶつかった人物を恐る恐る晶の後ろから顔を出せば、やっぱり雪だった。じくりと前回会ったの記憶が蘇り胸を疼つかせる。 「雪じゃん。久しぶり」 「あ、晶さん…悠太さんも…」 ”も”ってなんだ、俺は後付けか…と、言うのは簡単だったが喧嘩したいわけではない。俺は黙って晶と雪が話すのを眺めていた。 「ご飯食べに来てたのか?」 「そうです。学校のみんなで食べに来てて」 「そうなんだ。楽しい?」 「…実はあんまり。前に話した少しいじってくる友達がいるんで居づらいというか」 前に話したということは、二回目に会ったときに話したことなのだろうか。でもその時はそんな話をしていなかった気がする。

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