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第4話

はっと目を覚ますと目の前に知らない顔があった。驚いた俺はわぁっと叫び声を上げて起き上がってしまい、目の前の人物と額をぶつけあう羽目になる。 「いって!」 「あぅぐ…」 情けない声をだしながら額を抑えて後ろに転がると、ぶつけてしまった相手も床にごろんと転がった。声に聞き覚えがあり顔を見てみると、晶の行きつけのバーのマスターだった。よく覚えていたなと自分でも思う。それから電話した時の声の主は彼だったのだろうと気づいた。慌ててごめんなさいともう一度起き上がって謝れば、いやこっちこそごめん、と逆に謝られてしまった。 彼は俺の前髪を捲って額を確認すると立ち上がり、晶、起きたよとドアの向こうに声をかけた。するとすぐにだだっと駆ける音がし、晶がドアを開けて顔を出す。 「よかった!起きた!」 晶は俺の寝ているベッドまで来て、泣きそうな顔をしてぎゅっと抱きしめてきた。 「心配した、ほんとに!寝てるだけだってヒロちゃんは言うけどなんか薬盛られているんじゃないかって思って…」 先ほども抱きしめられたのにどうしてだかカチカチに固まっていると、ヒロちゃんと呼ばれる彼が俺から晶を引き剝がしてくれた。 「おいこら、悠太くんびっくりしてるだろ」 「あ、ああ、ごめん悠…でも俺ほんとに心配で。どこも痛くない?しんどくない?」 「痛いと言えばおでこが…」 「えっ、痛い?どうしよ病院…!」 晶が慌ててポケットから携帯を出そうとすると、ヒロさんがチョップをし晶を止めた。 「ストーップ。デコがいてぇのは俺とごっつんこしちゃったからだ」 「え、そうなの?」 首をかしげて聞かれ、うんと頷く。晶はヒロさんがしたのと同じように俺の前髪を捲って確認してきた。じっとそこを見て彼はただ赤くなっているだけだとわかるとよかったぁと安堵し座り込んだ。 俺は周りを見渡し、多分ここは晶の部屋の寝室だろうと見当をつける。 背中で揺られている間に寝てしまったのか。申し訳ない。 「ごめん晶。運んでくれてるのに寝ちゃって」 「全然いいって!むしろ寝れてよかったよ」 「晶帰ってくるなり悠の意識がない〜!って慌ててさ。救急車まで呼ぼうとするから、ちょっと待て、寝てるだけだって諭して…」 そんなことになっていたのか。自分が寝ている間にずいぶんとたくさん迷惑をかけてしまったようだ。 「ご迷惑をおかけしてすみません…」 「いいよ、大丈夫。…晶から話は聞いたけど…大変だったね」 こくり、と頷く。 今思い出すせば彼らが話していた薬は違法なものだ。知っているのは、大学でも注意喚起されていることが多々あるからである。ベータをまるでオメガのようにしてしまう魔法の薬…強制発情剤と媚薬、あとは大麻だか麻薬だかを混ぜたそれは、近年警察が問題視している代物だ。まさか自分がそういうことに巻き込まれるなんて思いもしなかった。俺は今になってさらに恐怖が背筋を走りぶるりと体を震わせた。 「さっきの奴とはもう会わない方がいいね」 「はい…」 ヒロさんにそう言われるが、もう会おうとは絶対に思わない。 ちゃんとした人間だと思っていたのにまさかあんな輩と付き合っている人だっただなんて、自分の見る目を疑ってしまいそうだ。…いや、優は多分人を騙すのが得意な分類なんだろう。そうやって騙して、今までもああやってベータを実験台にしてきたのかもしれない。 俺は会う予定はもうありません、と言って携帯をポケットから取り出すと、すぐに優をブロックした。 ヒロにブロックした画面を見せるとうんうんと頷いてくれた。俺ははぁ、とため息をく。 「すごく、いい人だと思ったんですけど…」 俺から溢れた沈黙が部屋を暗くする。晶が俺の頭をぽんぽん、と叩いた。 「どこで知り合ったの?」 恥ずかしさも相まってマッチングアプリ、とにべもなく晶に答えると、彼は気にした風もなくそっか、と言う。 「まあ、マッチングアプリってそんなもんだって。大体がヤリモクで一部が本気な人って感じ」 「そうだね。あんまり気にしない方がいいよ…って言っても少しの間は引きずるだろうけど」 「……はい」 二人の慰めが心に沁み入る。 それでも今は、過去の優の優しさを思い出しては暗くなってしまうのだ。 彼は、優しかった。メッセージの返信はいつも早く、食事代はほぼ毎回出してくれて、割り勘の時も彼がいつも少し多く出してくれていた。荷物が多ければ持ってくれるし、ドアは必ず先回りして開けてくれた。 それが偽りの優しさだったとしても、自分の恋心は本物だったと言える。 静かになってしまう俺にヒロと晶が顔を見合せてどうする?という顔をする。それにすら返事する元気が今はない。 ふと窓を見れば、既に空は明るい。結構自分が寝てしまったことに気づき慌ててベッドから立ち上がった。 「そろそろ帰ります」 だが、一瞬ふらついてしまいすぐに晶に支えられてしまう。 「まだ体調万全じゃないじゃん。休んでいきなよ」 電話で助けを求めしまった上に家にまで上がらせてもらった。これ以上手を煩わせるわけにはいかない。 「で、でも…迷惑…」 「迷惑じゃないから。むしろ俺としては嬉しい」 え?と顔を上げれば晶があの笑顔をして俺を見ていた。それはまるで冬の日に時々出るお日様のような温かさをしている。その温かさに俺は安心感を感じてしまい、俺は大人しく家にいることに舌。 そのあと1日は晶の家で休ませてもらい、何事もなく次の日家に帰った。

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