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第5話
以降晶は俺とよく会ってくれるようになった。色々と心配なのか、それとも別の目的か。どっちにしろ俺と晶が仲良くなるのに時間はかからなかった。
晶は誰とでも仲が良く、俺と会う時以外はほとんど遊び歩いているようだった。それは悪い意味ではなく、いい意味で、だ。朝から出かけて友達と遊び、夜は友達と飲みに行く。もちろんそれだけじゃなくて友達のお悩み相談にも乗っているし、大学生だからとしっかり勉強会もしているようだった。
そんな時間の合間に晶は俺と会ってくれている。遊びに出かけたり、飲みに行ったり。でも、アルファはアルファと仲良くすることが普通だと思っていた自分はどこかでこの関係性は何なのだろうと考えてもいる。俺はベータで、晶はアルファ。第二次性が男女の性別より優位になっているこの世界は、アルファはアルファ、ベータはベータ、オメガはオメガとつるむ傾向がある。でも晶はそれに準ずることなく、様々なバースと付き合いがあった。その中の一例だと言われてしまえばそうなのだが、晶は俺をみんなに紹介することはなかった。その理由はわからなかったけど、自分だけの時間を作ってくれていることに俺は少し優越感を覚えていた。
「悠!」
今日も今日とて晶は俺と会ってくれている。駅の大きな時計塔の前で待ち合わせで、服を見に行くことになっていた。晶はいつもお洒落で、正直服も顔も平凡な俺が隣にいるのは恥ずかしくないのかと問いたいほどである。晶はそう、アルファらしく筋肉質でイケメンだった。身長も百八十を優に超えているそうだ。
「最近一段と寒くなったろ?服揃えたくてさー」
そう言う彼は、ベータの夫婦から生まれたらしい。しかしあまり家族仲は良くなく、家によりつかない晶に仕送りとしてお金が定期的に振り込まれるそうだ。曰く、アルファだからと期待値が高すぎるのだとか。使わないと使えと言う電話がかかってくるらしく、今日はその金を使って服を買うらしい。普段晶はコンビニでバイトしているらしい。これは最近聞いた話。
晶が俺に気を使わなくなってきているのはなんとなくわかっていた、だからこそ、こうして家の踏み込んだ話まで話してくれるのは嬉しかった。
「たしかに最近特に寒いね」
「だろー。俺寒いの嫌い。悠は?」
「俺は寒い方がいい。暑いの苦手」
「わ、俺と全く逆。俺暑い方が好き」
晶らしい返答だと思った。暖かな光のような彼に、冬は似合わない。俺は雪国出身なこともあってそもそも冬の方が得意なのだ。そういえばこの話はしただろうか。言ったような気がするけど、話してない気もする。晶に話してもきっとうんうんと二度目であってもきちんと反応してくれるためあてにならない。悠の話は何度だって聞きたい、そんなことを言われて照れない人間はいるだろうか。いや、いない。なんたって彼はかっこいいんだから、そんなことを言われたにんげんはきっとみんな一様にして照れてしまうだろう。俺以外に言ってほしくないけど。
晶は行きつけのバーのほかに行きつけの服屋もあるらしく、来店した服屋でいらっしゃいませーという声と共に晶じゃん!という言葉が返ってきたほどだ。レジのカウンターから女の人が出てきて晶の肩を叩く。
「久しぶりじゃん!元気してた?」
「元気元気!春子さんも元気?」
「元気よ~ありがと!」
どうやらなかなかに親しい仲のようで会話が弾んでいる。俺は二人の間に入るなんて無粋なことはせず、服を見て回ることにした。自分でも着れそうな丈のズボンを選別し、身に合わせてみる。
「悠、こっち来て」
そのうちに晶に呼ばれて大人しくそばに行くと、晶は春子さん、俺の叔母さん!と紹介をしてくれた。まさか親族を紹介されるなんて思ってもみなくて、俺はおっかなびっくりしつつも初めましてとお辞儀をした。
「あらかわいい。お友達?」
「そ!今日はこいつの服見て欲しくてさ。悠もベータだし気が合うかなって。金は俺が出すから安心して」
びっくりして振り返れば、いつものにこにこ笑顔の晶がいた。
「えっ、ちょっと、聞いてないよっ?」
「言ってないもん。言ったところで遠慮して買わせてくれないだろー」
そりゃ遠慮するよ。そのお金は晶のご両親が晶のためを思って送ったお金だ。俺に使われるのは間違いである。あわあわと両手を振って必死にいいよ!というも、春子が既に了解してしまい後ろから押される。
「いや待って、マジで、俺服大丈夫だし!」
「君結構かわいい顔してるね!似合う服絶対見つけてあげるから安心しなよ~」
そういうことじゃない!という俺の悲鳴は試着室に消えていった。
結局俺はなすがままジーンズを一着、上着を二着買ってもらうことになってしまう。それも中々に良いお値段で…。いつか返すと言ったが、きっと晶は受け取ってくれないのだろう。晶はそういう人だと最近わかってきていた。
「あ、おい」
服屋を出て二人で他愛ない話をしながら歩いていると、後ろから声をかけられた。振り返れば赤茶けた髪をした男の人が立っている。晶の友達だろうか。
「佐藤…」
「なに今日暇だったんじゃん。勉強ってウソかよ」
「いや、暇じゃないし。でもまぁ嘘ついたのはごめん」
正解だったようで、佐藤と呼ばれたその人は晶の肩に腕を回し仲良さげに腕を組んだ。
「…で、誰?」
晶より大きい彼が俺を眼下に見る。見降ろされるとなかなかに怖く、俺は少し怖気づいてしまう。それにすぐに気づいた晶が蓑田さんから離れると俺を後ろに隠してくれた。
「威嚇すんな」
「威嚇してねぇ…匂いしねぇ、オメガ?ベータ?お前と一緒にいるってことはベータか」
「そうだよ、ベータ」
「名前も教えてくんねぇわけ?」
「言いたくねぇの」
本当に気安い関係のようで、晶は俺に話すより突き放した、いや、気が置けない感じで話している。それに俺はすこし、嫉妬した。なんでも知ってると思っても、結局は何も知らないのだ。
なんだか悲しくなってきた。そもそも晶はどうして俺をみんなに紹介したがらないのだろう。もしかして、友達と思われていないんじゃないか、なんて暗い思考に陥る。晶は誰にでも分け隔てなく付き合う性格なのに、俺に会うときは必ず時間を作ってくれる。それってもしかしなくても、紹介して恥ずかしい奴だとおもわれるのかもしれない。
俺はそれを証明するべく、晶の後ろから飛び出るとあの!と声を出した。
「俺、伊藤悠太っていいます!」
「お、元気。俺佐藤翔(かける)。アルファね。多い名字ランキング上位同士で仲良くしよ」
翔が俺に手を差し出してくれる。俺が手を握ろうとした瞬間、驚いた晶が慌てて俺を背に隠した。
「ちょっと」
その行動で、完全に俺は晶にとって自分は紹介して恥ずかしい奴なんだと思ってしまった。そっか、俺って晶にとって汚点なんだ。ほかの人と一緒に遊ばせてくれないのも、紹介してくれないのも俺がだめだからなんだ。でも俺の何がだめなんだろう。貧相に見えるとか?人を騙すように見えるとか?
俺がそんなことを思っているなんて露知らず、二人は楽し気に会話している。しかし翔が俺の顔を除こうとする度、晶が避ける。そして晶が俺を隠す度、俺は自尊心が傷つけられる。そんな構図が出来上がった。
そのうち翔が俺を諦め、まぁ今度遊ぼうぜと言って去って行った。晶はぼそりとなにかを呟くも俺の耳には届かない。
「悠、大丈夫…?」
振り返った晶が俺の顔を覗き込んでくる。
「…大丈夫」
「なんか、泣きそうな顔してる。あいつ勢いすごいからさ、ごめんな」
「うん、大丈夫」
ここで駄々をこねていても仕方ない。こうして遊んでくれるだけでもいいと思わなきゃ。それでも心のどこかでもう会わないでおこうという気持ちが湧いていた。
俺は一度下を向いて深呼吸すると、ぱっと顔を上げて今度は何する?と晶に聞いた。晶は少し俺の顔を窺って、でも何も言わずに、ご飯食べようと言ってくれた。今日だけでも楽しむために、俺は大きくうなずいた。
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