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第14話
朝に帰ってきた晶は平然と友達と飲み明かしてしまったと説明してきた。俺は心を落ち着かせて、感情的にならないようにそういう時は連絡してよと冗談めかして言う。正直朝顔を合わせた瞬間に問い詰めてやろうと思っていた。それをしなかったのは、夜の間にヒロから落ち着いて話をするんだよと釘を刺されていたからだ。でも、冷静になればなるほど俺は怖気づいてなにも聞けなくなってしまって。だから俺は、口を開くことをやめた。
そしたら雪と晶が一緒にいるところがまるでビデオを巻き戻したかのように何度も頭の中で再生されるようになった。何をしていても、誰とはなしていても。それは晶と一緒にいる時もだった。彼を見るとそれが特にひどくなって俺は部屋に引きこもるようになる。体調が悪いと嘯(うそぶ)く俺を晶は心配してくれた。でもそれが余計に俺の神経を逆撫でした。それでも俺は晶にあの時のことを聞けないでいる。そうやって頑なになってしまったのにはもう一つの理由があった。
「悠、大丈夫?」
お粥を片手に部屋に入ってくる晶はとても心配そうな顔をしている。
「うん、ごめん晶。ありがとう」
晶がベッドに腰かけ俺の体を起こしてくれる。俺は助けられながら起き上がると器を受け取った。
二日前から俺は風邪をひいたことになっている。正確には数日前から体調が悪かったが風邪の症状だったということにしようとしたが、本気で風邪をひいてしまったのだ。朝のけだるさにまさかと思って熱を測ったところ、三十七度五分、しっかり風邪だった。
「いいよ。お粥食べれるだけ食べたらまた寝てる方がいいよ」
「うん…」
晶が俺の額に手を当て、まだ熱いねと言った。風邪をひいたのに思い当たる節はいろいろあるが、結局大きいのはストレスなんだろう。晶と雪が歩いているところを見てから二週間。俺はまだ晶に聞けないでいた。聞きたいけど、そうだよと肯定された時が怖い。それがどうかしたのと言われてしまうのが嫌だ。だから俺は閉口するしかない。
粥を口に入れ無意味に咀嚼する。薄味に感じるのはそうやって晶が作ったからなのか、ストレスのせいか。どっちにしても味気ないことに変わりはなかった。適当に五口ほど匙を運んで俺はごちそうさまと言って晶に手渡す。彼は俺を一度抱きしめ立ち上がると部屋を出て行った。
静かになった部屋にぴろんと携帯の通知音が鳴る。パスワードを打ち開いてみれば”別れてくれましたか”の文字・頑なになるもう一つの理由がこれ。雪がどこからか俺の連絡先を手に入れて毎日こうしてメッセージを送ってくるのだ。
最初にメッセージが送られてきたときは率直にになんだこれと思った。迷惑メールかなにかかなと。メッセージの内容は別れてください、だった。意味が分からず放置していると、数時間後に”雪です。悠太さんですよね。晶さんとのことでメッセージ入れさせていただきました。”と馬鹿正直に自身の身分を明かしたメッセージが届いた。
『俺、晶さんのことやっぱり諦めきれません。別れて欲しいんです』
『晶さんだってその方がいいって思ってます。アルファとベータは釣り合いません』
『別れて。』
『別れろ』
最初に会った時から強かそうだと思っていたけど、ここまで暴走するなんて。毎日一通ずつ送られてくる別れろの文字や暴言はなんとか我慢できた。我慢できなかったのはそう、まるで晶が本気で思っているかのような文章だった。
『晶さんは別れたいって言ってました』
『やっぱりオメガの方がいいって話してましたよ。ベータなんかと付き合うんじゃなかったって』
これが晶の本音なのだろうか。俺に言わないだけで晶は俺と別れ時を探そうと、別れようとしているのかもしれない。そう考えてしまって…俺は晶に別れ話をされるのが嫌で頑なに雪のことを口に出さないでいるのだ。雪の話をした途端、それなら話は早い、もう俺たち別れようと言われてしまうんじゃないかと毎日怯えて。そんなくよくよしてる自分もどんどん嫌いになって。じゃあどうすればいい、って自問自答して。苦しい。もう嫌だ。
「もう嫌だ」
口に出してしまうと余計に苦しくなって、俺は横になって枕に塩水を染み込ませた。こんなところ晶に見られたら、きっともっと心配させる。原因は晶と雪のことだと言ってしまえたらどれだけ楽だろうか。
俺はため息を涙と同じように枕に吸い込ませて何とはなしに携帯をもう一度開く。もう一件雪からメッセージが来ていた。
『今俺が会いたいですって言ったら出てきてくれるみたいです。俺の方が大事にされてますね』
がばりと起き上がりリビングへのドアを開ける。そこには雪の送ってきたメッセージの通り外着に着替えようとしている晶がいた。
「なに、してるの」
震える口でそう問えば、晶は以前と同じように友達がトラブルに遭ったみたいだから出かけてくると話す。顔は真剣そのもので、雪からのメッセージがなければ信じていただろう。…もしかして、この間ヒロのところに行った帰りに送られてきていたメッセージも雪からなの?
「っ?」
晶が驚いて息を詰まらせる。俺が、抱き着いたから。”俺の方が大事にされてますね”は、風邪をひいている俺を置いてでも晶は出てきてくれるという意味なのか。どの意図でも構わない、俺は晶を行かせたくなくて必死にしがみついた。
「悠太、ちょっと」
それでもなお着替えを続行しようとする晶。あだ名で呼ばれないときは本気で困っているときだと知っている。でも。
「いかないで」
言った瞬間晶の動きが止まった。迷いを示すように上着が上腕を上下する。
「おねがい、いかないで」
「…」
「あきら」
「…わかった」
ずるりと上着が床に落ちる。晶は振り返って俺を抱きしめると、頭を優しくなでてくれた。
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