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第16話
すべてが明るみになってから、晶は俺をよく気遣ってくれるようになった。あまりでかけなくなったし、出かける時は必ず誰と何時まで会うから、と言ってくれるようになり、日付が変わる前に帰ることを約束してれる。それでも俺はどこかで彼を信じきれないでいた。それはそうだろう。晶は俺にすべてを黙って完結させていたのだから。いくら話すつもりだったと言っても、俺は雪と連絡を取ることも会うこともやめて欲しいと思っていたのだ。それをやっていたのは、晶だ。
部屋でダイニングチェアーに座ってぼんやりと外を眺める。俺の住んでいた地域ではまだ雪が降っている時期が、大学のあるこの県はあまり雪の降らない地域だ。しかし今日は珍しく大雪の注意報が出るほど雪が降っていた。
「悠、結婚指輪見に行かない?」
そう晶に声を掛けられ振り向く。晶は行く気満々なのか既にコートを羽織ろうとしていた。たまに晶はこうして強引な時がある。あまり意見を言わない俺からするとありがたいことだ。
…そっか、今年の三月、俺結婚するんだ。
本当にこれでいいのかなという気持ちが溢れてきて、そんなこと思っちゃいけないと思い直す。晶はもう雪とは連絡を取らないと、会わないと約束してくれた。それを、信じないと。
行く、と返せば晶の表情がほころぶ。俺が断らないってわかってる顔。そんなところはかわいいなと思う。
外着に着替えてジャンバーを羽織る。外に出ればひらひらと雪が舞っている。地面には3センチほど積もっていた。俺の地域の大雪に比べればかわいい方だが、この辺りに住む人にすれば大雪なのだろう。
「寒いな」
「そうだね」
玄関にいる晶が戸棚からマフラーを取り出し俺に巻いてくれようとする。でも雪のことを思い出しそうになった俺は断って自分で巻いた。晶は残念そうだったが、自分の蒔いた種だとわかっているためかなにも言わなかった。
ざくざくと雪道を晶と手をつなぎながら歩く。手の温かさは相変わらず太陽のようだ。
「それでこの間桜が―」
「なにそれおもしろい」
晶が友達とのバカ話を聞かせてくれる。こんな風に他愛ない話をしている時間が好きだ。そんなことを思いながら横断歩道を渡る。
そしてまた彼を見つけた。泣きそうな顔で俺の晶を見ている。でも晶はそれを見ることなく俺と共に彼の横を通り過ぎた。俺が振り返ろうとすると、晶は俺の手をぎゅっと握り、街中だというのに俺にキスをする。
「あ、あき、」
「悠」
待ち行く人が俺たちを見ているというのに、そのまま晶は俺のことを抱きしめた。大丈夫、なにも心配いらない、と。そのうち射貫くような視線は消え、晶もそっと俺のことを離す。
「行こう」
「…うん」
晶は俺を選んでくれた。彼のことを見すらせず。そのことが俺は晶に愛されているという自信に繋がる。
その日はある程度指輪の種類と石を決めた。そして、帰ると晶が俺を求めてきた。
「ん、ぁっ」
首を吸われて小さく喘げば、そのまま抱えられベッドに沈まされる。寒い寝室で俺たちだけが温め合う。服を脱がされて乳輪を舌でいじられ、嫌嫌と首を振る。そこは俺の弱いところだと知っていて晶はいつも容赦なくいじめてくるのだ。
俺は晶も脱げと言わんばかりに彼の服に手を伸ばす。晶はそれを見て、くすっと笑い自ら服を脱いだ。一週間に一回だけだがジムに通っている彼の体は引き締まっていてかっこいい。腹筋に手を伸ばして触ればくすぐったいと笑われてしまった。俺が触っても基本的に晶はこそばがるばかりで気持ちいいとは言ってくれない。俺と違って性感帯が少ないのかもしれない。
俺は状態を起こすと晶のズボンに手をかけ、そのまま下着ごとずり降ろす。晶は何も言わず俺が咥えやすいように胡坐をかいた。
晶のソレは既に大きく育っており、俺が触るとぴくりと揺れる。俺は大きく口を開けてソレを咥えた。
「ふ、ん…ぐ、んん」
顔を前後に動かして大きなソレをさらに膨らませる。晶は気持ちいいのかたまに深く息を吐いていて、そういう反応をされるとやりがいがあるなと感じた。俺が感じて声を出した時、晶もそう思っているのだろうか。
そのうち晶のがびくびくと咥内で動くのを感じ、俺が強く吸った瞬間精を解き放った。苦いそれを口でを受け止める。
こくりと全部を飲み干し顔を上げてあーと口を開けて誘う。挑発されたとわかった晶はすぐさま俺を押し倒した。
雪というスパイスを入れた俺たちのセックスは燃え上がり、明け方まで行為は続いた。そのおかげか、晶が俺だけを見て俺を愛しているのを感じ取ることが出来た。雪を無視したあの行為のおかげで俺はもう二度とあんなことはないとちゃんと理解することが出来た。
…できたはずだったのに。
晶が大学の友達と遊びに行くと行って帰ってきたある日。玄関先で彼を出迎えた俺は晶から不思議な匂いを感じ取ってしまった。その匂いは、以前晶が話していたように”降り積もった雪”の匂いで。俺は雪国出身だからその匂いがどういうものか一瞬で理解してしまった。自分の体に起こった変化に戸惑いつつ、どうして晶からこの匂いが、と思考がめちゃくちゃになっていくのを感じる。
そして俺は、そのままその場に崩れ落ちた。過呼吸を起こしたかのように息が荒くなる。その度に匂いが口の中、鼻の中に入ってきてさらに気持ち悪くなった。
「悠っ?」
驚いた晶が俺の背中をさすってくれる。優しいその行為から、裏切りの匂いがする。俺は顔を青くしたまま、大丈夫、と言って急いで晶から離れると自室に閉じこもった。ドアの向こうで晶が何か言っているけど、俺は泣いていることがバレないように口を押さえるのに必死でなにも返すことが出来なかった。そのうち晶は諦めたのかドアの前から声はしなくなり、俺はそのことでようやく一息つく。
―雪の降り積もった匂い
どうして自分がその匂いを感じ取ることが出来たのか。どうして晶からその匂いがしたのか。考えることは山ほどあったが、頭がうまく働かず、その日はベッドで眠れぬ時間を過ごすことになった。
次の日リビングで会った晶からはあの匂いはせず、もしかして気のせいだったのかも、と思う。今日は俺は講義が休みだっため、大学に行く晶を見送るために玄関に行く。昨日のことがあったせいか晶は非常に心配気味だったが、俺がどうにか落ち着けて大学に行くよう促す。
「じゃあ行ってくるけど…なにかあったらすぐに連絡してね」
そう言って晶は俺を抱きしめてくれた。その瞬間、ふわりと香る雪の匂い。俺は拳を痛いほど握りしめ、笑顔を取り繕った。
晶が出て行ったあと、俺はすぐさま携帯を取り出し検索した。
『ベータ 匂い わかる』
これだけで検索できるのかと問いたくなったが、意外にも検索結果は俺が望んだものだった。ベータで不思議な匂いしてきた人へ、とまるで俺に向けたかのようなホームページを押す。
「オメガに分化…?」
曰く、ベータでもまれにオメガに分化…オメガになることがあるらしい。いや、でもまさかそんな。そう思いながら本文を読んでいると心当たりが多くあった。アルファとずっと一緒にいること、アルファと恋人関係であること…、アルファに抱かれていること。読めば読むほどそうであるとしか思えなくなる。オメガに分化したベータはまずアルファやオメガの匂いがわかるようになるらしい。そういえば今日嗅いだ時晶から降り積もった雪のような匂いと一緒に太陽のような暖かな匂いがした。雪であろう匂いに気を取られすぎてわからなかったが、もしかしたらあれが晶の匂いなのかもしれない。
―オメガに、なる。
怖いのにスクロールするのをやめられない。最終的に分化したベータは発情期が来るようになり、最終的には…妊娠が可能になる。
ぶるりと体が震えた。症状は当てはまっている。もしこれが分化なのだとしたら、俺はこの先どうなるんだろう。オメガになって、発情期が来て…。発情期という今まで自分には関係なかったはずの単語に恐怖を感じる。怖い。発情期のオメガはとにかく性欲が強くなり誰かに抱かれないと収まらないという。二年前、優に飲まされた薬を思い出した。あの時は本当につらくて、晶がいたからどうにか抑えられたんだ。でもその晶は、雪と…。もしひとりになったら、俺はどうすればいい?オメガにされるだけされて、あとはポイ?
このことは晶に言うべきか、黙っているべきか。悩んで、ふと晶が付き合うときに言っていたことを思い出す。
―俺、オメガが苦手なんだ。
理由は聞いたことないけど、雪とはきっと運命の番だから惹かれ合ってしまっただけで、基本的に彼はオメガが苦手なはずだ。それなのに俺がオメガになりそうだなんて…言えるわけない。でも自分から晶に離れようと言う勇気もない。
「どうすれば、いいの」
携帯を持ったまま、俺は玄関で呆然と立ち尽くした。
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