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第2話 興味深い話をしているね
オレの教育の甲斐あって今ではドルフも軽々しくアルロード様のお名前を口にしたりしない。えらいえらい。
でも言ってる内容はムカつくんだよ!
「そうだけど! あの方にはいつも笑顔でいて欲しいんだよ。まぁ憂い顔もめちゃくちゃ麗しいから眼福なんだけどさ」
「ハイハイ」
「あのお方はさ、告白してくれた人ができるだけ傷つかないように気遣って毎回優しい言葉をかけてくださる素晴らしい方なんだ。今回も本当に丁寧に言葉をかけてらしてさ、オレはもう、あのお方こそ幸せになって欲しいと思うんだよ」
「遠目にしか見てねぇくせによく言うぜ。半分以上想像だろ。いっつも思うけど、よくもまぁそんな、ろくに話した事もないヤツをそこまで信頼して、幸せを真剣に願えるよなぁ」
「いいだろ別に。好きな人の幸せを願って悪いことなんて別にないんだし」
「本当だね、僕もそう思うよ」
後ろから突然そう声をかけられて、オレは大きく肩を揺らした。
だって、この声。
「おお……」
ドルフが目を見開いてオレの斜め上を見た。そしてオレは、ギ、ギ、ギ……と錆びた機械のようにゆっくりと振り返る。
「すごく興味深い話をしているね。私も一緒に、その話を聞いても良いだろうか」
見上げたら、昼食のトレイを持ったアルロード様が、いつもの優しい微笑みを浮かべてオレを見下ろしていた。
***
ぶっちゃけそれからの事はあまり覚えていない。
二年もの間憧れて憧れて推し続けていたアルロード様が、オレの真横に座って学食食ってて、しかも時々間近にオレに微笑みかけて、なんか分かんないけど話しかけてくれてるなんて、夢みたいで頭が真っ白だった。
気がついたらほぼ飯を食い終わっていて、ゆっくり食後のコーヒーとか飲みながら談笑するフェーズに入っているわけだけど。
つーかドルフ、なんでそんなに自然体でアルロード様と話せるんだよ。アルロード様のキラキラをこんな至近距離で見て、目が痛くならないの?
信じられない気持ちでドルフを見たら、ドルフもオレの視線に気がついたらしい。目が合った途端にニヤリと悪い笑みを浮かべて、オレをからかう時の顔になった。
「お、やっと目が正気に戻ったか」
「え!!??? もしかしてオレ、なんか変なこと言った!!???」
「どうだろうなぁ」
ニヤニヤを深めるドルフの様子に、オレは真っ青になった。
もしかして舞い上がっちゃってアルロード様に馴れ馴れしい態度をとったり、変なこと口走っちゃったり、あまつさえセクハラしたりとかしてないよね!?
そんなことしてたとしたら万死に値するんだけど。
「大丈夫、特に変なことは言っていないから安心して」
震えるオレを見て可哀想に思ったのか、アルロード様がそう言って微笑んでくれた。
さすがアルロード様、優しい〜〜〜!!!
感激するオレをドルフが胡乱げに見ているけれど、そんな視線なんて気にもならない。だってアルロード様がオレを気遣ってくれるという栄誉を得られただけでも幸せ過ぎて全ての運を使い果たしたかもしれないと思ってるくらいだし。
「まぁ変なことは確かに言ってないな。むしろ何も言ってない」
「何も言ってない……?」
「おう。アホみたいに口を開けてずっと遠くを見てたからな。まぁ気持ちは分からんでもないが」
え、でもオレの食事はちゃんと食い終わってるんだけど。訝しむオレ。
ドルフはさも当然という顔でこう言った。
「あ、冷えるとマズくなるから食っといてやった」
「お前なぁ!」
思わず抗議の声を上げたけど、隣から楽しそうにクスクス笑う声が聞こえたら怒りなんてどっかに飛んでっちゃう。
チラッとアルロード様の方を見たら、滅多に見ることができない笑み崩れた楽しげなお顔で、長〜い睫毛が笑うたびにふるふる揺れて、可愛いと綺麗と幸せとが具現化してる。なんかもう嘘みたいに神々しい。
胸いっぱいで、お腹までいっぱいな気持ちになった。
うん、もう飯なんかどうでもいい。今日は許してやろう。
「ま、まぁいいけど」
「だろ?」
だがお前は後でシメる。
「とにかくオレ、変なことは言ってないんだよね?」
「ああ、もちろん」
アルロード様が微笑んでくれるから、大丈夫ってことだよね?
良かった。アルロード様に嫌われた上、アルロード様を密かに見守る同士の皆から軽蔑されたら生きていけない。
「つーかむしろお前がフリーズするから困ってたんだよ。アルロード様は、お前のだーい好きな『あのお方』のことが聞きたいんだってよ」
「ふぁっ!!!???」
思いもよらないお話に、思わず変な声が出た。
「お前、マジで予想通りの反応するなぁ」
「な、なんで……」
オレがアルロード様のこと、とんでもない熱量で日々ドルフに推し語りしまくっていたのがバレたんだろうか。
気持ち悪かったのかな。
それとも。
「ご、ごめんなさい……!!!」
思わず謝ったら、アルロード様は可愛く小首を傾げた。
「どうして君が謝るのかな。どちらかというと、謝るのは無理を言っている私の方だろう?」
「アルロード様が謝るだなんてとんでもない! 無理なんて言ってませんから!」
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