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第16話 絶対にナシです!
「まさか!!!!!! 以前も言ったと思いますけど、オレの幸せは『あのお方』が選んだ方との幸せを見守ることなんで!」
「じゃあ、『あのお方』がルキノを選んだとしたら?」
さらにとんでもないことを言い出した。
アルロード様は随分と想像力たくましいお方だったらしい。ありえないシミュレーションまで未来予想図として検討する視野の広さは感動モノだと思うけど、そこまで考えるのはさすがに時間の無駄だ。
アルロード様の貴重なお時間は、もっと有意義なことに使って欲しい。
「オレだけは絶対ないです。オレなんかじゃ『あのお方』を幸せにできる可能性が限りなくゼロに近いんで! 『あのお方』には絶対に幸せになって欲しいんです!」
「そんなの、分からないじゃないか」
「絶対にナシです!」
力強く言い切るオレに気圧されたのか、アルロード様が一瞬口ごもる。
そして、迷った末に、囁くみたいにこう言った。
「じゃあ……僕は? 僕じゃ君の伴侶になれないだろうか」
アルロード様の常軌を逸した発言に、オレは我が耳を疑った。
「は……伴侶? 伴侶って」
あの伴侶?
え、待って。
これってプロポーズされてるの!!???
「ルキノは大好きな『あのお方』にたまに会えるなら、伴侶なんて誰でもいいという事だろう? なら僕でもいいんじゃないかな」
いやいやいや、名案! みたいな顔してるけど、どう考えてもおかしいから!!!!
びっくりしすぎて声も出せずにいるオレに、アルロード様は晴れやかな笑顔でこう告げた。
「そうだ、それがいい。ルキノの大切な『あのお方』はこれまでの話から察するに騎士を目指しているんだろう? 僕なら騎士の鍛錬場へも王城へも入れるからルキノが会いたいと望む時に会わせてあげられるし」
「いや、いやいや、何を血迷った事を。そんな理由で結婚するとかあり得ないですから! アルロード様にそんな迷惑かけられるわけないでしょう!」
「迷惑だなんて。僕は好きな人もいないし、ルキノといると楽しいから僕にとってもいい事だと思うけど」
慌てるオレに、アルロード様は極上の笑みを惜しげなく披露してくれる。
攻撃力が高すぎて、まるで魅了の魔術にでもかかったみたいだ。けれど、アルロード様の未来がかかっているだけに正気を失うわけには行かない。
オレは丹田に力を入れて、キッパリと断りの言葉を口にした。
「いいわけないでしょう! アルロード様はお人柄が良過ぎます。オレを不憫に思ってなんとかしたいと思ってくれてるって分かるけど、そんなの御両親からも認められませんよ。だってどうみても恋愛じゃないんだし……!」
恋愛結婚してくれって言われてるんでしょ? と言外に言ってみたら、アルロード様はうーん……と難しい顔で唸った。
「それは……そんなに大事な事だろうか。ルキノも母上達も似たような事を言うけれど、僕はルキノが幸せな方が嬉しいんだけれど」
「そのお気持ちは嬉しいですけど……やっぱりダメです」
「ダメ? どうしても?」
なにその可愛い困り顔!!!
うっかりアルロード様の言う事ならなんでもきいちゃいそうになっちゃったじゃん!
「どうしても、ダメです」
「でも、ルキノ」
なんとかお断りしたというのに、アルロード様はまだ食い下がってくる。
「実家は出るから二人で気楽に住めるし、公爵家の後ろ盾もある。確実に騎士になれると思うから生活の心配はいらないし、通いの使用人くらいは雇えるよ? ルキノを大切にすると誓うし、自分で言うのもなんだけど優良物件だと思うけれど」
オレのために一生懸命アピールしてくれるアルロード様、尊い。
おこがましいけれど、アルロード様はオレのことを友人のように思ってくれているのかも。
嬉しい……とジーンとしていたオレに、特大の爆弾が落とされた。
「それに僕はその、アルファだから、ルキノが苦しい時にはいつだって助けるよ」
「……!!!」
ショックだった。
そうだ、そういう事だ。
オレがオメガである以上、単に同居人で済まされるわけじゃない。
たった二、三ヶ月一緒にいただけのオレのためにこんなにも必死になれる人なんていない。アルロード様の素晴らしさを実感しているからこそ、絶対にアルロード様だけはオレの事情に巻き込んじゃいけないんだ。
「やっぱアルロード様だけは絶対にダメです」
「どうして? 僕は何かルキノに嫌われるようなことをしてしまっただろうか」
「とんでもない! アルロード様が大好きだからこそ、結婚できないってことです」
「大好き……」
「さっき人生は長い、って言ってたでしょう? 同情で結婚を決めるには人生は長すぎますって。オレ、アルロード様に申し訳ないって思いながら長い人生生きるのは嫌ですよ」
「申し訳ないなんて思わなくていいんだよ」
「思います。オレはアルロード様には相思相愛の超絶綺麗なオメガのお嬢さんと、最高に幸せな人生を送って欲しいんです」
「でもルキノ」
「オレ、ちゃんと逃げないで自分がどうだったら幸せか考えます。それで、父にもちゃんと話をしようと思います。……だから、アルロード様もこんな決め方で伴侶を選ばないで。ちゃんと愛する誰かを探して欲しい」
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