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第17話 オレ、迂闊でした
オレのまっすぐな言葉が響いてくれたのか、アルロード様はそれ以上言いつのってくることはなくて、正直ホッとした。
今日分かったのはアルロード様が思っていた以上にとんでもなく優しくていい人だって事。そして、それゆえに危うさもあるって事。これまで変な人に騙されなくて本当に良かったってレベルだ。
オレも、アルロード様の優しさに甘えてとんでもない迷惑をかけないようにしなくちゃって強く思った。
オレが、気をつけなきゃいけないんだ。
「心配して貰えたのはすごく嬉しかったです。オレ、オメガ性についてももっとちゃんと向き合おうと思います」
「ルキノ……」
「今日も実はちょっと反省してて……まだなんか自覚が薄くって何にも考えないでここに来ちゃったんですけど、オレ、迂闊でしたね」
たとえアルロード様が友人だと思ってくれていたとしても、オレはオメガだ。見る人が見ればふしだらだと捉えられても仕方がない。
それに、発情期でなくとも突然ヒートになる可能性だってなくはないんだ。オレ、本当に迂闊でバカだった。
「本当はオレ、来るべきじゃなかった。アルロード様はアルファだから、オレがうっかりヒートなんか起こしたらアルロード様にとんでもない迷惑をかけてしまうところでした。本当にごめんなさい」
アルロード様は息を呑んで、悲しそうに眉を下げた。
「謝らないで。誘ったのは僕だ。謝るなら僕の方だ」
「じゃあ、今後はお互い気をつけるってことで!」
重たい空気にならないように、オレはあえてさらっとそんな風に言ってみた。これからは絶対にこんなマネはしない。
「念のためにふたりきりになるのは避けて、これまで通りドルフと三人でいれば問題ないと思います。もしオレがヒートになったら、アイツがなんとかしてくれますんで」
「なんとかしてくれるって、彼はベータだろう」
「はい、ベータなんで影響受けないんですよね? アイツならぶん殴ってでも止めてくれるか、誰にも迷惑かけないところに運んでくれると思うんで」
「ああ、そういう……」
アルロード様がホッとした顔をしてくれたから、理解してくれたんだろう。
「君はドルフをとても信頼しているんだね」
「信頼っていうか、いつも見てるでしょう? オレがちょっとぼーっとしてるとすぐオレの分まで飯くっちゃうの。アイツ、全然遠慮とかないんで」
「ちょっと羨ましいな……」
「えっ?」
「いや、なんでもないよ。そうだね、ドルフの協力もあれば安心だ」
「はい!」
「でも、僕もいつでも力になろうと思っている、ということだけは覚えておいてね」
「はい……! ありがとうございます!!!」
どこまでも優しいアルロード様に、感動を禁じ得ないオレだった。
家族での食事を終えて食後のお茶を楽しんでいるタイミングで、オレはようやく覚悟を決めて口を開いた。
「父さん、話があるんだけど」
「うむ、何かあったか」
父さんだけでなく、母さんも、弟のマルセロもオレに耳を傾けてくれる。なんだか緊張するけれど、ちゃんと自分の考えを口にするって、今日は決めたから。
アルロード様と話して、オレもさすがに逃げているわけにはいかないと思ったんだ。
「父さん、オレの嫁ぎ先を探してくれてるんだよね?」
「うむ……」
歯切れ悪く返事をする父さん。その様子から見るに、まだ色よい返事を貰えていないんだろう。
「オレがオメガだって分かってから、その……皆気を遣ってそっとしておいてくれてありがとう。オレ、自分でもすごく混乱してて、その事について自分がどう思ってるのか皆に話した事無かったから、ちゃんと話しておこうと思って……聞いてくれるかな」
「ルキノ……」
早くも母さんの目が潤んでいる。このところずっといつも心配そうにオレを気遣って話しかけてくれていたから、きっと感極まっているんだと思う。
マルセロも神妙な顔で頷くから、オレはちょっとだけ笑って見せた。
ごめんな、オレがオメガなんかになっちゃったばかりに、突然跡取りの役割が回ってきて、お前だって戸惑ってるよな。
「正直に言うと、まだ自分がオメガだってことに抵抗を感じてるのは確かなんだ」
ぽつりと話し始めたら、ただ静かに聞いてくれる。
そのことに、家族の優しさを感じてオレもちょっと泣きそう。
「でも、もう騎士にはなれないって事だけは確定してるから、それがただ悲しくてさ、なんでオレが、ってそればっかり考えちゃって全然前向きになれなくて……心配かけちゃってごめんな」
「ルキノ……! 可哀相に。あんなに頑張っていたのに」
母さんがオレをぎゅっと抱きしめて、本格的に泣き出してしまった。
ごめんね、という思いを込めて抱きしめ返す。母さんに抱きしめられたのなんて久しぶりも久しぶりで、なんだか気恥ずかしい。
でも、大切そうに抱きしめてくれるその腕は、子供の時に感じたそのままの温かさだった。
「お前のせいではない。お前は、よく鍛錬していた。自慢の息子だ」
「父さん……」
滅多に褒めない父さんがそんな事を言ってくれて、胸が熱くなる。マルセロも同意を示すように一生懸命に頷いてくれて、オレはこうしてちゃんと家族と向き合うべきだったんだと改めて思った。
「マレーヌ、腰掛けた方がいい、ゆっくり話を聞いてやろう」
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