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  さて、今でこそ、こうやって自分の感情を大いに表に出す昊だが、五年前まではそうではなかった。 どこを見ているのか解らない虚ろな瞳と全く動かなかった表情筋、そして、言葉も最低限のことしか喋らず、文字にしてみたら平仮名さえ読めない上、書けなかった。 体重も身長も最低限の下の下で、成人男性と言うよりも子供であった。 だから、昊の周りだけが時間が止まったように昊の身体は五年前から全く成長していない。 だが、大五郎が昊を引き取ってからは感情だけは目まぐるしく大きく成長した。 しかし、ソレでもまだ小学校の中学年くらいの物事しか理解出来ないから、歯痒さから癇癪を起こすことが多かった。 特に言葉使いは感情が高まれば高まるほど、文法能力が乏しくなって幼くなっていた。 大五郎と話すときは、何時もそうである。 衝動も抑え切れないらしく、ウサギがぴょんぴょんと跳ねるように跳ねていた。 まるで、小動物である。 ソレは兎も角、大五郎の額にチューをさせろとせがんでいた昊にほらよと大五郎は気前よく額を差し出す。 「チュー、チュー」 そう言って、大五郎の額にチュッと何度も口付けをする昊はとても幸せそうだ。 とても実父による性的虐待を受けた上、実母による売春があり、その彼らに無実の罪を被されて死刑宣告を受けたとは思えれない。 そんな昊は急にハッとした顔をして眉間にシワを寄せる。 そして、何かを思い出したらしく、矢鱈ソワソワとし出した。 大五郎が「どうした?」と訊くと、 「あのね、あのね、俺ね、うさごろうと一緒にバターロール食べるの……」 昊はポケットから少し千切られたバターロールを取り出すと、半分に千切り大五郎にその半分を押し付けて来た。 バターロールはポケットにしまってあったからぺっちゃんこで、昊の不器用な手で千切られたから大きさはちぐはぐである。 「うさごろう、アーン」 恥ずかしそうにそう言う昊に大五郎はああと思い当たる節を思い出して、昊が差し出したバターロールをパクリと食べた。 「ん、ウマイ♪」 大五郎がニコニコ顔でそう言うと、昊はパッと花が咲いたようなほんわかな顔をする。 そして、 「俺もアーン、アーン」 昊の分のバターロールを大五郎に差し出す昊は食べさせろとせがむ。 大五郎は、昊の頭を撫でながらバターロールを受け取ると昊の口の中に放り込んだ。 当然、 「ん~、美味し~い♪」 そう言って昊は満足そうにぺったんこのバターロールを頬張った。 大五郎はそんな昊を見ながら、ゆっくりと応接間に向かう。 ざわざわと雑音に交ざった大勢の人の声が聞こえて来た。 応接間の襖を開けると、矢張り付けっぱなしのテレビの中で有名俳優と女優が熱烈に口付けを交わしていた。 ドラマの再放送だ。 昊はこのドラマを見て、羨ましいと思ったのだろう。 陽毅と不倫ゴッコをしていたと言うのも、頷けた 昊は、意外におませさんだ。 否、こう言うことに関しては実年齢に近いと言った方が良いのかもしれない。 「昊、他にやりたいことはねぇの?」 大五郎はテレビを消しながらそう言うと、昊は目を大きく開けて、 「うさごろうと、デイトしたい♪」 遊園地にいくの♪とさっきドラマでやっていた舞台の遊園地のことを言う。  

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