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承3
「ああ、もしもし?陽毅くんですか?オレ、大五郎ですけど!?」
大五郎は昊の真似をして、受話器の向こう側にいる陽毅に向かってそう喋る。
痛々しいほどのトゲがある喋りなのは、陽毅に対して怒っているからだ。
「えーっと、陽毅ですけど、大五郎さん、怒っていらっしゃるようなので轟さんとかわりますね……」
悄気た口調で陽毅はそう言うと素早く轟とかわったようだ。
その数秒後には、轟の声が受話器から聞こえて来たから。
だが、轟は大五郎に激怒していた。
「もう、大五郎さん、何で昊ちゃんに電話させたんですか?」
私、ちゃんと書き置きしておいたでしょう?
見てないんですか?
と。
腹いせのような突っかかりと上からモノを言う口調で、そうまで言われたら大五郎は何の話だと言う感じで、
「ハア?」
と、怒鳴り返す。
実際問題、大五郎は事情もなんも解らないからブチ切れて当然なんだが、そう滅多にドスの効いた声を上げないから恐いことこの上ない。
だから、
「あ、すいません。ちょっと、感情的になってしまいました。ええっとですね、台所のテーブルの上にですよ。大五郎さん宛に手紙と割引き券、置いてあったでしょう?」
轟はモノ応じしたのか、大五郎に謝罪してからそう言う。
そして、轟はあることに気が付いて自分が謝罪したことが馬鹿馬鹿しくなった。
「………ってことは、まだ朝食食べてないんですか?何しているんですか?ちゃんと朝食食べないと早死にしますよ?」
昊ちゃんがいるんだから、そう言うところ直して下さいよ!!
そう再び、大五郎に怒鳴り付けていた。
今回は自分の汚点だから、大五郎は轟に怒り返せれず、声だけをあらげた。
「な、解ってるって!!っつか、テーブルの上に手紙と割引き券って、何だよ?」
そんなまどろこしいことせずに直接言えばイイだろが?
と、大五郎が言うと轟は瞬時に思った。
手紙を読みのが面倒臭いのね、と。
轟は、大きく息を吸い込むとマシンガンの如くだだだと喋り始めた。
「あ~あ、今朝ね、昊ちゃんがいそいそとお出掛け準備していたから、きなしに聞いてみたのよ。そしたら、ハルくんと遊園地にいくって言うじゃない?大五郎さんも知っているのかと思って聞いたら、昊ちゃん、うさごろうには内緒なのと言うのよ。コレは怪しいってことで遊びに来たハルくんを問い詰めたら、昊ちゃんに口止めしておいたらしいのよ。昊ちゃんってお願いされたことって素直に聞くじゃない?コレはもう一大事だって、大五郎さんに言い付けにいこうとしたら、ハルくん、土下座までして見逃してくれって言うの。大五郎さん贔屓の私としたらそんなの聞くハズがないんだけど、昊ちゃんに遊園地、いけないの?としゅんとしちゃってそう言われたら、私も鬼じゃないからダメなんて言えないじゃない?だからさ、ハルくんと賭けをしたのよ。大五郎さんが許したら、ハルくん、大五郎さん、昊ちゃんの三人でいってらっしゃいって。ソレで、事情が解らない大五郎さんにも解るように書き置きしてたのよ。見てないんじゃ意味ないじゃないの!!」
そう熱弁たる語りは、どう聞いても大五郎贔屓の賜物。
流石、大五郎の元妻の妹と言うべきである。
だから、元妻よりも大五郎が好き過ぎて、元妻が自信喪失して大五郎に離婚を言い出したことは轟は知らない。
ソレは兎も角、こんなにも大五郎さんのために頑張っているんですから、少しは私の苦労も解って下さいよと言う轟はぷんぷんだ。
「…………わ、悪りぃ……」
大五郎が呆気に取られてそう口走ると目の前にいた昊が、
「うさごろうは悪くないよ。良いコ良いコ」
と、背伸びをして大五郎の無精髭をなでなでと撫でて慰めていた。
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