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第3話
「この者は殿下が村を懇意にして度々ご訪問されることに目を付け、恐れ多くも殿下のお命を狙い───…」
王位継承権は第1王子か第4王子、いづれかの手に………。
そこまでに候補が絞られた頃、第4王子である男の命を狙ったとして、俺の妻が捕まった。
第1王子の指示だったと、同じく牢に入れられた俺は牢番から話を聞いた。
彼女が男に毒を盛ったらしいが、それが事実なのかは俺には分からない。
しかし彼女が作ったスープを口にした男が倒れたのは確かで、それがどれ程重大なことなのかはどんな阿呆だって分かったことだろう。
男は一命を取り留めたものの、俺と彼女は裁判にかけられるとのことで首都に連れていかれ、その後、早々に彼女は死刑となったらしい。
死刑の判決が下されたのも、刑が実行されたのも、そしてこれが追い風となり第4王子が王位に就くことに決まったのも、俺は全てをただ牢番から伝え聞いただけだった。
彼女の死を聞かされたあの日の、首輪の重さ。
それから牢の中でただ死を待つだけだった俺の元にある日男が訪ねてきて「もう暫くしたら出してやる。」と告げた。
夫婦のもてなしのスープを飲んで王子が倒れたというのに、妻が死刑で夫が無罪なんておかしな話だ。
どういうことかと尋ねたが、男は「お前が必要なんだ。」と強い眼差しで俺を見た。
そして数日後、俺は本当に牢から出されたが、故郷に帰ることは許されず、俺にはなぜか賓客用の一室が与えられた。
俺の故郷では疫病が流行っているという話で、牢から出てきて数日後、俺の故郷とその隣村を封鎖して焼いたという話を耳にした。
牢に居た頃から続けていた弟との手紙のやり取りにはそんなもの書かれていなかったと思ったのに…俺には真実を確かめる術は何も残されていなかった。
国を守るため疫病の村を焼くことは珍しいことでは無いし、今回はそれが俺の故郷だった。
それだけの話なのに俺は悲しみを抑えきれなかった。
俺は正しく、親も、兄弟も、妻も、何もかもを失くしたのだ。
帰るべき故郷も、もう無い。
もういっそのこと死刑にしてくれたら良かったのに、1人残される苦しみを味わうくらいなら、俺も一緒に殺してほしかった。
なぜ俺だけを生かしたのか。
…そういうヤケもあったのだろう。
俺を部屋から出すことも許さず、飼い殺しにする男に怒りが湧いて、ある日部屋を訪れた男に、俺は襲いかかった。
だが当然、部屋の外で控えていた兵士が物音に気付き駆け付けて、俺は拘束され牢獄に戻されそうになった。しかし男が「2人にしろ。部屋には誰も入れるな。」と兵士に告げ、俺を解放させた。
泰然とした態度で椅子に腰掛ける男を前にすると、考えをまとめられず、俺は男に対する尊敬の念も、恨み言も、全てを怒りに任せて叫ぶように吐露する。
それに対して男はこの場に似つかわしくない、惚けたような顔で微笑んでいただけだった。
何を言っても手応えの無いように感じた俺はなんだか自分がバカみたいに思えて「もういい。お願いだ…。殺してくれ。」と、男の前に頭 を垂れた。
椅子から立ち上がり歩み寄ってくる男の気配を感じながら俺は、
あぁ、この絨毯は俺が一生働いても買えないだろうな、そんなものに俺の血を付けてダメにしてしまうのか…
なんて、他人事のようにぼうっとしていた。
すると男は俺の前に歩み寄ると剣を抜くのではなく向かいで同じように膝をついた。
掬うように顔を両手で持ち上げられ、何かと思っていたら男はフワッと顔を近付けると俺の唇に自身の唇を重ねた。
「……………何を…?」
男が何をしたのか、何をしたいのか理解出来なかった。
「要らない命なら、俺がもらおう。」
そう言って男が笑い──…
それから俺の地獄のような日々が始まった。
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