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第4話
あろうことかこの日、男は俺の衣服を剥ぎ取ると床に引き倒して逃れようとする俺に執拗に愛撫した。
俺は反射的に拳を作って振り回し、それが男の左頬に思い切り当たった。
「うっ…」と男の呻きが耳に届いたことで、俺は反射的に『しまった』と瞠目する。
しかし目に入ったのは、ボタボタと股下に落ちた血が赤い染みを付ける布の下で、静かに持ち上がる狂気だった。
「な………っ……──…」
俺は恐怖で言葉が出なかった。
男の灰色の瞳はまるで狼のようで、ただ1人、俺という獲物を見つめると、丸呑みにするように俺に迫った。
『喰われる』
本能でそう思った。
そしてその表現はあながち間違っていなかったろう。
朝になって俺の部屋を訪れた官吏たちが男の下で無惨に転がる俺を引っ張り出すまで、俺は男に犯され続けた。
男は殴られた頬も、その後俺が暴れて付けた脇腹の痣も、何もかもお構い無しで、ひたすら俺の中に侵入しては精を吐き出した。
俺も喉が焼き切れる程に叫んでは「もうやめろ」「触るな」と、拒絶の言葉を放ったが、それが聞き入れられることはなかった。
侍女によって部屋から連れ出された俺は、意識も朦朧としており、足取りは覚束なかった。
男の指示で、普段は寵姫だけに認められた湯殿に連れて行かれる間、何度も派手に転んでは、その度に足の間から男の吐き出した精が漏れ出てきた。
それが気持ち悪くて仕方がなかった。
自身を濡らす白色の他に混ざる血の赤色。
無理矢理に重ねられた手を潰れるほど強く握りしめられたことで付いた指の跡を見る度に体が震えた。
そしてこの日から男は何度も俺を抱いた。
死にそうな程に絶頂に追いやられては、嬉しそうに唇を重ねられる。
男から与えられる快楽は、快楽を通り越した拷問のようだった。
毎度意識が飛ぶ程追い立てられ、呼吸が苦しくて目の前が白む。
俺はその度に願うのだ。
これが最後となるように、もう目覚めませんように、と。
殺してほしくて男を襲ったのに、あろうことか俺は何度も何度も男に良いように抱かれ、妻との揃いの首輪も、ある日、手足の自由を奪う毒を盛られ、その間に彫金師に切られてしまった。
俺は2度と触れることも許されないまま、首輪を捨てられてしまった。
代わりのつもりだろうか、その後男はどの妃よりも上等な部屋を俺に与え後宮に住まわせた。
こんなものは望んでないと、殺してくれと願うのに、俺が熱を出せば侍医が鞭打ちに遭い、毒でも盛られた日には毒を仕込んだ侍女とその主が死んだ。吐き出さなければ良いのに、簡単に血を吐いてしまう自分の体が、俺の意思なんて無視するように『生きたい』と叫んでいるようで、恨めしかった。
「お前が死んだら、お前が生まれ変わるまで、日毎に1人殺してお前を待とう。」
なんて恐ろしい愛の言葉だ。
もしそれが叶うなら、きっと俺という存在は相当呪われた存在に成っているに違いない。
生まれた時から呪われた子。
今の自分と何が違うのか、なんて考えて、虚しくなって笑った。
外堀から埋めるように、男に全ての自由を奪われて支配される。そして夜は男の慰み者になる。
そんな日々は、俺の心を壊すのに時間を要しなかったし、周囲の反発を招くに容易かった。
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