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第5話
僅かばかり許された自由の中で、息抜きのために出た庭園。そこで俺は側妃の彼女と出会った。
「わかるぅ!見初められた側の私たちに自由なんて無いよねぇ。ね、私で良ければ友達にならない?」
率直で飾らず、明るく話す彼女。俺はすぐに彼女に心を許して、彼女の紹介で護衛騎士を付けた。
日々血が流れるこの後宮で、後宮の死神とまで言われた俺に関わろうとする者はもう居なくなっていた。
そんな中に現れた護衛騎士の志願者。
俺は初めて男に懇願して騎士を付ける了承を得た。
ただただ男に抱かれ人形のように過ごす日々で、側妃と騎士との時間だけが俺を癒してくれていた。
どうか、どうか2人は死にませんように。
2人が死なないために生きたいと、そんなことを思った。
だが結局、男は俺の自由など許さなかった。
「あの女に惚れているのか?」
ドクリと心臓が大きく脈打ったこと、唾を飲み込んだこと。そんなこと、布切れ1枚身に付けていない俺と繋がる男の目には、一目瞭然だったのだろう。
翌日、側妃が消えた。
俺の愚かな恋慕で、彼女は死んだ。
せめて騎士だけでも守ろうと、彼に解雇を告げたのだが、彼はそれを拒否した。
「彼女はあなたのことを守るよう私に命じました。私は、彼女の遺志を守ります。」
側妃が騎士に向ける視線も、騎士が側妃に向ける視線も、気付いていた。
それでも彼らは俺を受け入れてくれた。
騎士が側妃の想いを守りたいように、俺だって守りたいのだ……2人を。
彼の意に反することを心の中で詫びながら、騎士の解雇を官吏に申し出た。後任が居ないと文句を言われたが、もううんざりだった。
しかし騎士は、志願して後宮の衛兵になっていたらしい。
部屋から1歩も出なくなった俺はそんなことは知らなくて、喉を通らなくなった食事と筋力が落ちたことにより日に日に細くなっていく手足を眺めていた。
そんなある日、誰か、部屋の窓の外から呼びかける者がいた。
顔を出せばそこには騎士。
「随分痩せられましたね…。これ、あなたが編み出した加工法に更に手を加えて作った石が付いてるんです。建物の骨組みや小さな部品、こういった装飾品まで、幅広く使えるみたいですよ。」
そう言って渡されたのは銀色の光を放つ鉱物で出来た腕輪。
「秘密ですよ。」と、騎士は、側妃の真似をするようにイタズラっぽく笑って見せた。
俺がここでこんな日々を過ごす前のことを覚えている人が、今はどれ程居るのだろうか。
俺の生まれてきた価値を、眩むほどの死体の山の中から騎士が探し当ててくれたみたいだ。
その日は細くなった腕に嵌るそれを眺めて眠りについた。
朝、目が覚めると侍女が泣いていた。
俺の専属侍女はもう居なくなったから、偶然今日、当番として俺の部屋に来ていただけの少女だった。
何事かと尋ねると彼女は涙ながらに口を開く。
良くしてくれていた衛兵が死んだのだ。
その言葉に血の気が引いて、衣服も直さずに飛び出した。
夜中のうちに運び出す人員すら不足していたのか、遺体はまだ後宮内にあって、俺は見たくなかったのに確かめるしかなかったその死に顔を見つめた。
悲しみの中で、やるせない怒りがふつふつと湧いて、後宮を飛び出して、朝議の場に乗り込んだ。
そこにあの男が、騎士を殺したあいつが居ると分かっていたから。
しかし俺は議場に入る前に取り押さえられて、更に俺を取り押さえただけの衛兵たちは手首を失うハメになってしまった。
俺はどれほどの人を苦しめて、生きているのだろう。
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