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第6話 嫉妬と独占、そして交渉
翌朝、柔らかな朝日が寝室に差し込む。
布団の中で目を覚ますと、隣にはまだ眠そうに目をこすっている遥がいる。
「おはよう、遥」
「……お、おはよ……」
俺は布団越しに軽く頭を撫で、少し意地悪な笑みを浮かべる。
遥は無意識に眉をひそめて俺を見上げた。
「……ん、ちょっと……そんな顔で見んなよ」
「いや、可愛いからつい見ちゃうんだよ」
顔を近づけて軽く唇に触れると、遥は照れたように目を伏せて小さく笑う。
その反応に心臓がぎゅっとなって、思わず布団の中で抱き締める。
「俺の隣はお前だけ。覚えておけよ」
耳元で低く囁くと、遥は小さく息を漏らして体をぴたりとくっつける。
「……拓実、やっぱお前……ずるいわ」
「ずるい? いや、これが俺の愛情表現」
遥は目を細めて笑いながらも、少し恥ずかしそうに顔を背ける。
「そろそろ起きような」と声をかけると、少し顔をしかめながらも、遥はさっと起き上がる。
「……今日は俺が朝ごはん作る」
「え、マジかよ」
「だから、邪魔すんなよ?」
遥は軽く笑いながら、洗面を終えてエプロンをつける。
卵を割ったりサラダを作ったりする手つきは真剣そのものだ。
「手伝おうか?」
「……いや、大丈夫。拓実は座って待ってろ」
言われた通りテーブルに腰掛けると、遥はパンをトーストにし、目玉焼きを皿に並べていく。
小さな手つきひとつひとつに見惚れ、俺は目が離せない。
「……ほら、できた」
「ありがとな。めっちゃ美味そう」
遥は照れくさそうに少し俯きながら、皿をテーブルに置く。
「いただきます」と言いながら、一緒に食べ始める。
二人だけの朝食。キッチンに漂う香り、差し込む朝日、そして互いに触れ合う距離。
余計なことは忘れて──今はただ、この時間の幸せに浸っていた。
***
指定されたカフェの個室。
木の扉を押し開けると、如月怜央が静かに座っていた。
怜央は背筋を伸ばし、視線をこちらに向ける。
「怜央さん、今日はありがとう」
遥が先に軽く頭を下げ、挨拶する。
「こちらこそ。遥くん、会うのは久しぶりだね」
「確かに。いつもメッセージだからね」
怜央は軽く頷き、視線を俺に移す。
「アークメディアホールディングス代表取締役の神谷と申します」
「はじめまして、如月怜央です。遥くんからお話は聞いてますが、具体的にどのような内容でしょうか?」
俺は資料を手に取り、落ち着いた声で話す。
「今回、弊社で進める企画にぜひ出演していただきたく……」
怜央は資料を一通り見渡し、少し考え込む。
そして、柔らかく口を開いた。
「……いいですよ、出演に前向きです」
怜央は静かにそう言ったあと、資料を閉じてこちらを見た。
「ただし、正式な話は事務所を通してくださいね。僕自身が決められるのは“やる意思がある”ということだけですから」
「もちろんです。事務所には改めて正式にご相談いたします」
俺がそう答えると、怜央はふっと笑った。
「僕も真剣に向き合いますよ。事務所に話を通しておくから、安心して進めてください」
「ありがとうございます」
握手を交わした瞬間、胸の鼓動が落ち着いていく。
俺と遥はほっと息をついた。
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