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第34話 今度こそ自由に

翌朝。 拓実の腕の中で目を覚ました俺は、昨夜の安らぎがまだ体の奥に残っているのを感じていた。 背中にまとわりつく温もりが心地よすぎて、正直、このまま布団から出たくない。 「おはよう、遥」 耳元に落ちた低い声に、思わず肩が跳ねる。 振り向けば、拓実がいつもの穏やかな笑みを浮かべていた。 ……いや、よく見ると今日はどこか真剣そうだ。 「拓実?」 「昨日の話、ずっと考えてたんだ」 そう言いながら、拓実の手が俺の頬に触れた。 真っ直ぐな視線が突き刺さってくる。こっちはただでさえ寝起きで頭が回らないというのに。 「遥の義理の家族のこと。特に、健って奴のことだけど」 健の名が出た瞬間、心臓がぎゅっと縮む。 せっかく気持ちが軽くなったのに……朝からまた重い話になってしまう。 「拓実、もういいよ。昔のことだし」 「よくないって」 バッサリと、あまりに迷いのない声に、思わず息が止まる。 優しいだけの拓実じゃなくて――怒りと決意をまとった、別の顔を見せている。 「遥がどれだけ傷ついたか、俺には想像もつかない。けどな、放っておけるわけないだろ」 拓実は俺をじっと見つめた。 「あいつら、今後も遥を利用しようとしてるんだろ? 金のこともそうだし、きっとこれからも何かと理由をつけて連絡してくる」 図星すぎて、反論できなかった。 俺の表情が暗くなるのを見て、拓実は小さくため息をついた。 「やっぱりな。遥、お前優しすぎるよ」 「でも、どうしようもないじゃん。血は繋がってないけど一応家族だったんだし……。結局、縁を切ることもできないみたいだし」 「家族?」 その一言に、空気が一瞬で張りつめる。 「家族って、お互い大切にし合うもんだろ。一方的に利用してくるような関係、それ家族じゃねえよ」 低い声で言い切ると、拓実はベッドを降り、窓辺に歩いていった。 朝の光を背負ったその姿は、やけに大きく見える。 「俺なりに考えがあるんだ。遥を守る方法」 「……何する気?」 心臓がドキドキして仕方ない。聞くのが怖いけど、黙ってもいられない。 拓実は振り返り、真剣そのものの瞳で答えた。 「まずは証拠集めからかな。義家族が遥にしたこと、全部記録に残す」 「証拠?」 「そ。連絡の記録や金銭のやり取り、あとは必要なら第三者の証言も取る。で、必要だったら法的措置も検討する」 ……って、いきなりスケールが大きすぎないか。 「法的措置って……そこまでするのかよ?」 「する。放っておいたら繰り返されるじゃん。遥一人で背負わなくていいから。俺も一緒に考えるし」 俺の胸が温かくなった。でも同時に不安も感じる。 「でも、大ごとになっちゃったらまずくね……?」 「わざと大ごとにするんだよ」 拓実ははっきりと言った。 「遥を傷つけた奴らを、このまま野放しにできないだろ。俺が遥の家族だって昨日言ったよな? 家族を守るのは当然だろ」 ……ずるい。そんな真顔で言うなよ。 心臓が勝手に跳ねて、呼吸が浅くなる。 俺のために、ここまで怒ってくれる人がいるなんて。 「拓実……」 「大丈夫だからな、遥」 拓実は俺のところに戻ってきて、また抱きしめてくれた。 「今度こそ遥を自由にしてやる。もう誰にも邪魔させねえから」 その腕の中で、俺は思った。 ――この人となら、きっと大丈夫だ。

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