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第41話 暴かれる嘘
午後2時、俺たちは指定されたホテルの近くのカフェで待機していた。
拓実の携帯には岩本社長との通話が繋がっていて、状況を把握できるようになっている。
「緊張する……」
「大丈夫だって」
拓実が俺の肩を叩く。
「全て計画通りだよ」
2時50分、健がホテルのラウンジに現れた。手には茶封筒を持っている。そして3時ちょうど、岩本社長と美咲さんが到着した。
「始まったな」
拓実が呟く。ついに、健の運命を決める瞬間がやってきた。
拓実の携帯からは、岩本社長との通話音声がリアルタイムで流れてくる。
――健くんが到着したようです。
岩本社長の声が聞こえた。
――茶封筒を持っています。
「了解です。録音の準備はできていますか?」
拓実が小声で確認する。
――はい。美咲も隣にいます。
俺の心臓が激しく鼓動していた。ついに健の正体が暴かれる瞬間だ。
「それでは、始めさせていただきます」
*
――岩本社長、お忙しい中ありがとうございます。
健の声が聞こえてきた。いつもより低く、ビジネスマンらしく振る舞おうとしている。
――美咲も一緒で良かったです。これから家族になる人には、俺の仕事も理解してもらいたいので。
――健くん、それで例の件だが。
岩本社長の声は冷静だった。
――はい。
健が封筒をテーブルに置く音が聞こえた。
――アークメディアの来期事業計画書です。それと、神谷社長の個人情報も。
美咲の驚いた息づかいが聞こえる。
――健さん、これは一体……。
――心配しないくていい、合法的に入手した情報だから。
健の嘘つきな声に、俺の拳が握りしめられた。
――どのようにして入手したんだ?
岩本社長が質問する。
――アークメディアの内部に知り合いがいるんです。まあ、詳しくは言えませんが。
――内部に?
――……はい。それで、この情報を500万円で譲りたいと思うんです。
健の声が少し上ずっていた。
――美咲との結婚資金にしたくて。
――健さん……。
美咲の声が震えていた。
――こんなことして、本当に大丈夫なの?
――大丈夫だって。これは正当な情報取引だ。岩本社長も、競合他社の情報は欲しいでしょう?
――……では、中身を確認してもいいかな?
――はい。
岩本社長が封筒を開ける音がした。数分間の沈黙。
そして、岩本社長の冷たい声が響いた。
――健くん、これは一体何だ?
――え?
――この事業計画書、去年の決算資料をコピーして、数字を適当に変えただけじゃないか?
――そんなことは……
健の慌てた声。
――それに、この新規事業の内容も、昨年すでに発表されている内容とほぼ同じだ。
岩本社長の声がさらに厳しくなった。
――神谷社長の住所とされているこちらも、検索すれば出てくる会社の住所だ。
美咲のすすり泣く声が聞こえてきた。
――つまり、健くんは偽の情報を作成して、それを高額で売りつけようとしたということだな。
――違います! これは本物です!
健が必死に否定している。
――では、この情報の出所を教えてくれ。アークメディアの誰から入手したんだ?
――それは……秘密保持契約があるので……。
――健くん。
岩本社長の声に失望が滲んでいた。
――これには失望したよ。
――俺は……俺は……。
健の声が震え始めた。
――美咲との結婚のために、必死だったんです!
――でも、こんな方法で?
美咲さんの涙声。
――私、もう耐えられません!
――……美咲。
そのとき、岩本社長が低い声を響かせた。
――健くん、君には多額の借金があるだろう?
――いや、そ、それは……
健が顔をこわばらせる。
――今回の500万。それにネクストビジョンとアークメディアの取引に口を出し、自分に有利なお金の流れを作ろうとしたんじゃないのか?
社長の言葉に、美咲が震える声で続けた。
――……健さん、私たちの結婚、考え直しませんか?
――ちょっと待ってくれ! これは誤解だ、誤解なんだ!
健がパニックの声を上げる。
――誤解?
岩本社長が椅子を押しのけて立ち上がる。
――健くん、この件は警察に相談する必要がある。
――け、警察? そんな、大げさな……
――いいや。詐欺未遂という立派な犯罪だ。
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