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第48話 背中越しの“ごめん” ※R
ベッドの上で、拓実は背を向けたまま黙っていた。
薄暗い照明の中、静かな呼吸だけが聞こえる。
意を決して近づき、ベッドの端に腰を下ろす。
掛け布団の端を指でつまんで、小さく息を吸った。
「……さっきは悪かった」
勇気を振り絞って言うと、少し間があった。
拓実は動かない。けれど、わずかに肩が揺れた。
「……拓実」
肩をつついてみたけど、それでも無反応。今度はそのまま背中に抱きついた。
「……んだよ、遥……」
「こうでもしないと聞いてくれないじゃん」
背中越しに伝わる体温があたたかくて、逆に離れられなくなる。
「ごめん、拓実」
拓実の肩から顔をのぞかせると、目が合った。
「……ああ。俺の言い方も悪かった」
低く掠れた声。その声だけで、胸が少し痛くなる。
「うん。あのさ、俺……ちゃんと考えてたんだよ」
思わず言葉を重ねた。
“自分勝手に怒ったわけじゃない”――それを伝えたくて。
「……分かってる」
その目の奥には、怒りと寂しさがまだ混ざっていた。
「嬉しいのは嬉しいんだ。拓実のことは信じてるし、一緒にいたいし。でも、“結婚”って言われると、なんか現実感がなくてさ……」
拓実の腕を握りながら、少し震える声で言う。
「形にこだわっちゃいけないのは分かってるんだけど……」
拓実はしばらく黙ったまま、俺の手に軽く触れる。そして、低く、でも真剣に言った。
「……俺はどんな形でもいい。遥と一緒に生きてくって決めたから」
――怒ってても、優しい。
「……お前、ずるいよ」
「何が」
「そういう言い方されたら、何も言えなくなるじゃん」
拓実が少しだけ笑う。
でも、素直になるには、もう少しだけ時間が欲しかった。
「拓実、まだ怒ってる?」
「……どうだろうな」
わざとらしくそっけなく言うその声が、逆に可愛い。
拓実の頬に軽くキスを落とした。ピクリと動いた肩。
……効いたかな。
「なぁ、拓実。ごめんってば」
もう一回、今度は首筋に唇を寄せた。
「……まったく、お前って奴は」
「拓実が好きだから」
素直に言葉が出た。それだけで、拓実の呼吸が少し乱れる。
「……マジかよ」
低く笑った拓実が、ようやく腕を回してくる。
ぎゅっと抱きしめられて、息が詰まるくらい近くなった。
指先が髪を梳いて、額に唇が触れる。
「……拓実はもう寝る?」
「ん? 遥は寝たい?」
「……まだ寝たくない」
拓実がにやりと笑って、俺の手を取った。
「……まだ寝たくないって、言ったよな?」
「え、ま、待っ……!」
腕を引かれてベッドに倒れ込む。思わず顔が近づいて――
「逃げんなよ」
耳元で囁かれて、心臓が跳ねた。
「ちょ、拓実……!」
「遥、こっち見て」
低い声がやけに優しい。
目を逸らそうとしても、拓実が逃がさないように視線を合わせてくる。
優しい笑みとかすかな息の熱が、理性を溶かしていく。
「……っ、……」
ゆっくり唇を重ねると、拓実の舌が奥へ割り込むように入ってくる。
「ふっ……ぅ、」
どんどん息が荒くなり、体の芯が甘く痺れる感覚に、声を押し殺そうとしても自然に漏れそうになる。
「……はぁ……っ、拓実……」
名前を呼ぶ声が掠れて震えた。息を詰めると、拓実が低く笑う。
ベッドサイドの引き出しが開く音に、思わず心臓が跳ねる。
「……遥」
拓実の指先が俺の髪を掬って、頬を撫でた。
ふっと笑って、耳元で「可愛い」と囁く。
その仕草ひとつひとつが刺激になって、せりあがってくる快感に思わず身をよじる。
「……まっ……て……」
逃げたくても逃げられず、拓実に軽く押さえられた。頭の中がふわふわして、もう何も考えられない。
拓実の熱い息が耳元に掛かって、ぞくっとする。
「……遥は耳弱いよな」
低く甘い声、微かな笑い――腰にくる感覚。
拓実の唇が首筋をなぞり、そのまま鎖骨を辿って胸元まで降りてきた。
乳首を舌先で転がされると、思わず背中が反り返った。
「……んっ……あっ……あぁ……っ」
柔らかく吸われるたびに、身体の奥がきゅっと疼いてシーツを握りしめた。
「……遥」
名前を呼ばれるだけで、頭の中が真っ白になる。耳元にかかる吐息が、甘い。
「……あっ……あぁ……」
拓実が入ってきて、息が止まりそうになる。
体の奥から甘い熱が湧き上がり、腰もびくびくと震えてしまう。
「……ん、あぁ……や、やば……気持ち……」
拓実の首に腕を回して、耳元で言う。
ゆさゆさとベッドの上で揺れる身体。拓実の体が淡い照明を受けて、綺麗な筋肉の凹凸が浮かび上がる。
「あっ、あっ……拓実っ、もっと……」
ほんの少し笑った拓実の吐息が、また耳にかかって。
「……そんなこと言われたら、一生離せるわけないじゃん」
拓実が耳元でそう呟いた瞬間、首筋に柔らかい感触。
軽く噛まれ、甘く弄られ、息が詰まるほどの熱。
「……ゆっくり、気持ちいいところだけに集中しような」
俺が弱いところを全部知ってて、わざと焦らして意地悪してくる。
でもそれが、たまらなく嬉しい。
――仲直りって、けっこう体力使うんだよな。
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